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《藤浪晋太郎電撃トレード》イチローはヤンキース、ダルは期限10分前だったが…“横田慎太郎に捧ぐ”藤浪の好投→PO狙う首位移籍が激レアなワケ
posted2023/07/20 17:02
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph by
Vaughn Ridley/Getty Images
トレード期限の8月1日が近づくと、MLBでは駆け込み的に多くのトレードが行われる。日本時間7月20日、アスレチックスの藤浪晋太郎は、オリオールズにトレードされると報じられた。シーズン中の救援投手のトレードなど珍しくもなんともない。しかし、子細に見れば藤浪のトレードはかなりレアなケースだと言える。
防御率8.57でも起用され続けたことで幸運が
まず藤浪晋太郎の通算成績を取り上げると、MLBでプレーを続行できていること自体が幸運と言える。
34登5勝8敗0S3H 49.1回51振 率8.57
打高投低が続くMLBだが、アメリカン・リーグの平均防御率は4.55。藤浪はこれを大きく上回っている。選手の貢献度を示すWARも-2.0、つまりこの投手を使うより他の投手に置き換えた方がいい数字になっている。
ただし、成績を子細に見ていくと――7月の藤浪晋太郎は4月時点とは「別人」になっている。
〈月間成績〉
3、4月6登0勝4敗0S0H18回16振 率13.00
5月11登2勝1敗0S1H12回15振 率10.50
6月10登1勝2敗0S1H11.1回10振 率3.97
7月7登2勝1敗0S1H8回10振 率2.25
「大谷翔平の高校時代のライバル」「阪神タイガースの元エース」の触れ込みで移籍した藤浪だが、先発でいきなり4連敗。この時点での防御率は14.40、もし完投すれば14点以上取られるという状態だった。さらに救援に回ってからも、四死球を出しては打たれるという繰り返しになっていた。
藤浪は1年契約だ。普通のMLB球団なら、この時点で戦力外を通告するか、契約を見直してマイナーに送るかをしたはずだ。
事実、藤浪の阪神時代の大先輩である井川慶は、2007年ヤンキースに「日本のサイ・ヤング賞である沢村賞受賞投手」と鳴り物入りで入団したものの、開幕から不振が続くと5月7日にマイナー降格。一度は昇格したが、成績不振のため2年目はわずか2試合に登板しただけ。以後、長いマイナーリーグ暮らしとなってしまった。藤浪も同様の運命になってもおかしくなかった。
藤浪が恵まれた“いくつかの幸運”とは
しかし、いくつかの幸運もあって藤浪はMLBで投げ続けた。
1つは、所属するアスレチックスが「大不振」に見舞われたこと。7月20日時点で27勝71敗、勝率.276、ア・リーグ西地区では首位レンジャーズと31.5差、30球団でも最悪の勝率だ。実はまだこれでも少しマシになったのであり、一時は勝率1割台にあえいで「歴史的な大敗記録」を作ると思われた。