〈オリックスは95年、阪神大震災の年にリーグ初優勝しました。その翌年、僕が移籍した年に日本一になりました。あとから思えば、良いときに行かせていただいたと思いますね。

　95年当時は（神戸の中心街である）三宮はがれきの山でしたが、オリックスの本拠地のグリーンスタジアムには人が集まってくるという状況で、96年もそれが続いていました。その光景は、もう感動しかなくて、毎日が驚きでした。

　イチロー選手は94年にシーズン210安打を打ってブレークをして、僕が移籍した時にはもう大スターでした。イチロー選手とはロッカーも隣同士だったんですが、だからと言って世間話をするような感じもなかったし、深く話し込むこともありませんでした。僕も移籍1年目はいっぱいいっぱいだったこともあって、周りを見渡す余裕はなかったですね。

　田口壮選手が1番、僕が2番、イチロー選手が3番という並びが多かったのですが、仰木彬監督はほとんどサインを出さなかった。田口選手が出塁した時にエンドランのサインが何度か出たくらいじゃないでしょうか。

オリックス時代のイチロー　©Kazuaki Nishiyama

　僕が出塁してイチロー選手の打席では――セーフティバントをすることはありましたが――やはりサインは出なかった。とりあえずヒットになる確率が高い選手だから、自由にやらせた方がいいという感じ。走ればセーフになったこともあったでしょうが、僕も無駄な走塁はしなかった。ごちゃごちゃ目障りなことはしない。

　ピッチャーとイチロー選手の勝負に集中させた方が打つ可能性が高い。投手が真っ向勝負してくれた方がいいわけで、走者に気を遣うようなシステムはなかったですね〉

イチローは打撃練習だと“誰よりもはるかに遠く”

　WBCでは大谷翔平が打撃練習ですさまじい打球を飛ばして話題になったが、練習時のイチローで驚いたことはなかったのだろうか？

〈当時のオリックスには他にも強打者、外国人選手がいました。でも打撃練習では、イチロー選手は誰よりもはるかに遠くまで飛ばしていた。全て引っ張りで、グリーンスタジアムの上段や場外に運んでいたし、全部ホームラン打つくらいの大振りをしていました。飛距離は年々伸びていたように思います。トレーニング量が増えて、自分を成長させるための正しい努力をずっと続けていたからだと思いますね。

　ゲームではそういうバッティングはしないけど、練習ではフルスイングをやり続けないと成長がないと思っていたのでしょう。それからイチロー選手は重いバットは絶対に使わず、練習でも自分のバットだけを使った。そこには深いこだわりがあったのだと思います〉

96年、日本一になってビールかけするイチロー　©JIJI PRESS

　2019年3月、イチローは引退試合となった東京ドームでのアスレチックス対マリナーズ戦での試合前の打撃練習でも、右翼スタンドに大きな飛球を打ち込んでいた。イチローの努力は引退の寸前まで続いていたのだろう。

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