「いま思えば強要だったかな。『パスは止めて、ドリブルで抜け』と言いました。試合で3人に囲まれたときもそのように要求したのを覚えています。実際は絶妙なパスを出してチャンスをつくったのですが、『3人抜けば、フィールドに残っているのはあと何人だ』って。おかしな理屈ですけどね（笑）。

　当然、判断としてはパスの方が良かったんですよ。薫のスルーパスは絶品でしたから。一瞬で複数のディフェンダーを置き去りにできますし、時間が止まるような場面を何度も見てきました。でも、やっぱり、持っている身体能力を最大限に生かさないのは、もったいなくて」

川崎フロンターレU-12時代の三笘。ドリブルだけでなくパスも絶品だったという　©︎KAWASAKI FRONTALE

三笘は「これでいいでしょ」と詰め寄った

　選手からすれば、パスで局面を打開し、文句を付けられてはたまらない。素直だった優等生もさすがに怪訝な顔を見せた。納得のいかない本人から「パスからゴールにつながっているんだから、これでいいでしょ」と詰め寄られたが、高崎は「出来ることをしても成長がない」とそっけなく返した。

　飽くなき向上心を持つサッカー少年は、あえて茨の道を提示してくる指導者の意図を汲み取ったのだろう。ピッチでボールを持つと、果敢に仕掛ける日々が始まった。

　12歳の夏だった――。

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