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「中華料理店を探しておけ」“スター嫌い”トルシエは意外と優しい?「FIFA指定の劣悪ホテルを直談判で変更」黄金世代ワールドユース準V秘話 

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山本昌邦&武智幸徳

山本昌邦&武智幸徳Masakuni Yamamoto&Yukinori Takechi

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photograph byKazuaki Nishiyama

posted2023/06/20 11:01

「中華料理店を探しておけ」“スター嫌い”トルシエは意外と優しい?「FIFA指定の劣悪ホテルを直談判で変更」黄金世代ワールドユース準V秘話<Number Web> photograph by Kazuaki Nishiyama

日韓W杯時の監督を務めたトルシエ氏

武智 99年のナイジェリアのワールドユースで準優勝しましたよね。小野伸二がエースで。就任してすぐのあの大きな成果はかなりトルシエさんのイメージアップにつながったと思うんですが。

山本 あのときも最初は大変だったんです。チームに遅れて合流して、いきなりチームの雰囲気が気に入らないと怒り出して。トルさんが指示した練習をやりつつ、どこで強度を上げていくかがポイントだと私は思っていたのですが、彼の目には和気あいあいと映ったのでしょう。こんな雰囲気じゃダメだと言うわけです。

FIFAが指定したホテルを変えさせた

武智 そこから準優勝するまでに、チームはどうやってまとまっていったのでしょう。

山本 トルさんの能力を選手が認める出来事があったんです。彼は開催地のナイジェリアで代表監督をしていたこともあって、現地の状況に詳しかった。現地入りして最初のホテルはFIFAが指定したところで、ロッジ形式になっていて部屋はクーラーが効いているけれど、部屋の外に出るとものすごい湿度と暑さでした。するとトルさんは「ヤマモト、ちょっと練習を見ていてくれ。俺はFIFAに行ってくる」と言って一人で大会本部に交渉に出かけた。

 そこでFIFAがチームのために用意していたホテルを「ここじゃダメだ」「練習場はここがいい」と掛け合って変更させたんですよ。そうしたら、われわれの泊まるホテルのグレードがグループステージのときから劇的に改善し、環境が一変した。選手は「こんなに綺麗な水が出るホテルがあるじゃないか」と大喜び。部屋以外はエアコンのない生活から、施設全体にエアコンが効いていて快適に過ごせるようになった。そういう監督の姿を見て、選手も「トルシエ、すげえじゃん」と大いに見直すようになって。

武智 自らの力を選手に示したわけですね。

「お前は先に移動して中華料理屋を探しておけ」

山本 そもそも日本はシェフを2人ナイジェリアに連れて行ったので、他のチームが食事が口に合わず体調管理に苦労する中、日本はその点の心配はなかった。選手が極端に体重を落とすことはなかったんです。そういう準備力がトルさんにはありました。

 栄養補給については他にも、こんなこともありました。試合を終えて、次の会場に移動する際に、私に「日本人はこういうとき、何が食べたいんだ?」と聞くわけです。それで「日本食がないなら、中華ですかね」と答えたら、「今日の練習はリカバリーだけだし、練習はサミアコーチにやらしておくから、お前は先に移動して中華料理屋を探しておけ」と言うんです。日本人の口に合うものはお前が一番わかるだろうということで。だから現地のコーディネーターと探しました。

 実際、選手は喜んでガツガツ食べていましたよ。ああいう長期の大会になると、食べること、体重を落とさないことが大事で、体重が落ちると良いパフォーマンスを出せないんです。いまなら科学的に「水分が足りていない」といったデータが細かくわかりますけど、当時は体重の変動でチェックしていた。食事には非常に気を使っていました。トルさんはそこが良くわかっていたんですよね。

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