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ソールオリエンスは“取材中も”くつろいでいた…記者が目撃した、ダービー1番人気の「名馬の風格」 武豊“絶賛”のファントムシーフも侮れない
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byKeiji Ishikawa
posted2023/05/27 17:01
取材中、カメラを向けても“名馬ならではのくつろぎ”を見せたソールオリエンス。大物の雰囲気が漂っていた
ソールオリエンスの「懸念される唯一のデータ」
データを見れば見るほどソールオリエンスの二冠達成しかないように思えてくるのだが、ひとつだけ気になるデータがある。
それは、今年と同じ「重馬場の皐月賞」に関することだ。皐月賞で馬場が重以上に悪化したのは、1989年(不良)以来のことだった。その前は1983年(不良)、さらに前は1980年(不良)。そのひとつ前は、50年前の1973年(重)で、勝ったのは、国民的ヒーローだった無敗のハイセイコーだった。
つまり、「重馬場の皐月賞」と限定すれば、ソールオリエンスの勝利は、ハイセイコー以来50年ぶりだったわけだ。
大井から中央入りした「怪物」ハイセイコーは、皐月賞のあとNHK杯も制して戦績を10戦10勝とし、圧倒的1番人気でダービーに臨んだのだが、3着に敗れてしまった。
その一戦は「ハイセイコーが敗れたダービー」として、記録にも人々の記憶にも残っているのだが、そのダービーを勝ったのは、浦河の名門・谷川牧場が生産したタケホープだった。
ファントムシーフの手綱は武豊「心強いです」
今年のダービーにも、谷川牧場生産馬のファントムシーフ(牡、父ハービンジャー、栗東・西村真幸厩舎)が参戦する。皐月賞では1番人気に支持されながら、レース中の落鉄も響いたのか、3着に敗れた。同馬は新たな鞍上にダービー史上最多の6勝をマークしている武豊を迎えた。武が昨年ダービー6勝目を挙げた相棒のドウデュースも、2002年のタニノギムレットも、ダービー初勝利となった1998年のスペシャルウィークも、皐月賞では3着だった。ファントムシーフの追い切りに3週連続騎乗した武は「いい馬だ」と繰り返している。力の引き出し方を、すでにつかんでいるに違いない。
谷川牧場の谷川貴英代表は、鞍上が武に決まったことに関してこう話していた。
「ダービーという特別な舞台の怖さも魔物も知り尽くしている名手だけに、心強いです。タケホープは嶋田功さんの手綱でダービーを勝ちましたが、菊花賞は、テン乗りとなった武邦彦さんが乗って勝ったんです。そのあたりにも不思議な縁を感じます」
ファントムシーフが勝てば、谷川牧場生産馬としてタケホープ以来50年ぶり2度目のダービー制覇となる。ダービーの勝ち方を知る名手が、半世紀前と同じように「怪物」を負かしてしまうのか。
その武とて、ダービー初勝利は10回目の参戦でようやく果たした。1996年のダンスインザダークがダービーでの初めての1番人気の騎乗馬だったが、ゴール前でフサイチコンコルドにかわされ、2着に惜敗した。その悔しさが、2年後、スペシャルウィークでの勝利につながった。
横山武史も、まだ映像を見返すことかできずにいるほど、2年前のエフフォーリアでの敗戦で悔しい思いをした。ダービーの勝ち方を騎手に教えるのは、人間ではなく、騎乗馬だ。ソールオリエンスが若きトップジョッキーにダービーの勝ち方をどのように教えるのか、注目したい。