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あの森がファイターズの新球場に? ”ミラクル開成”奇跡の男が明かした衝撃の極秘計画と翌朝メール「昨日の話ですが…胸にとどめておいてください」
 

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鈴木忠平

鈴木忠平Tadahira Suzuki

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photograph byKiichi Matsumoto

posted2023/05/11 06:04

あの森がファイターズの新球場に? ”ミラクル開成”奇跡の男が明かした衝撃の極秘計画と翌朝メール「昨日の話ですが…胸にとどめておいてください」<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

2023年から日本ハムファイターズの本拠地となった「エスコンフィールドHOKKAIDO」。人口6万人の北広島市になぜ新スタジアムが建設されたのか

 おそらく、この列車に乗っている人間の中で、そんな思いであの森を見つめている人間はいないだろう。そもそも、森があることすら気に留めていないはずだ。ぼんやりとそんなことを考えながら、列車に揺られていた。隣を見ると、川村も窓の向こうをじっと見つめていた。札幌駅を出てから川村との間に会話はなかった。

 北広島駅に着くと、車輛はゆっくりと停止した。杉原ら北広島市役所の一行とともに数人の客が降りた。人影のないホームには札幌より厳しさを増した冷気が待っていて、車内 で蓄えた温もりをあっという間に奪い去っていった。階段を上がり、一カ所しかない改札口を抜けると、構内は閑散としていた。駅前にはいつもの静かな景色があるだけだった。 札幌のネオンとは比較にならない小さな灯りが2つ、3つ点いているだけだった。 

翌朝届いた短い文面のメール「昨日の話ですが…」

 翌朝、杉原はいつものように企画財政部に出勤した。頭の奥に宴のあとの気だるさが微かに残っていた。そのためか、一夜明けてみると前夜の帰宅列車で川村から打ち明けられた事実は夢か現か分からなくなっていた。幻だったのではないかとさえ思えた。

 席についてフロアを見渡すと、川村はもう自分のデスクにいた。前夜の酒の痕跡を感じさせることなく仕事を始めていた。杉原は我に返ってパソコンを開いた。画面を起動すると一通のメールが届いていることに気づいた。川村からであった。

 少し緊張しながらメールを開いた。短い文面が朝の気だるさを吹き飛ばした。

『昨日の話ですが、まだ動き出していません。具体的に動き出したら報告しますので、それまでは胸にとどめておいてください』

 幻ではなかった。杉原は想像を超えた現実にあらためて身震いすると、しばらく文面を見つめていた。

<前編から読む>

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#5に続く
札幌か、北広島か? 200万都市vs.人口6万人の街…ファイターズ新球場建設をめぐる”運命の1日” 「前沢さん…真駒内でいいですよね?」

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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