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プロ野球亭日乗BACK NUMBER
ダルビッシュ有から届いた深夜のLINE「部屋、どこですか?」WBC村田善則コーチが振り返るアメリカ戦の舞台裏「あれ、投げるの?」の問いに…
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byJIJI PRESS
posted2023/04/21 11:01
チームを陰に日なたに支えたのは、最年長のダルビッシュだった
時計の針を見ると午前1時を回ったところだった。村田コーチが部屋番号を返すと、すぐにまたラインが来た。
「ちょっと今から部屋に行ってもいいですか?」
数分後に扉がノックされ、ドアを開けると目の前にダルビッシュが立っていた。
手渡された極秘ファイルの中身は…
「役に立つかわかりませんけど……」
そう言って分厚いファイルを差し出す。ファイルを受け取った村田コーチは、何も言わなくてもそれが何かを理解していた。
「もちろん参考にさせてもらうよ。ありがとう。じゃあ今日預かって、明日返せばいいかな?」
ダルビッシュは「ハイ。それで充分です」と答えて静かに頷いた。
これから村田コーチがやらなければならない仕事をダルビッシュもわかっている。部屋の中に入ることもなく「それじゃあ失礼します」と頭を下げると、すぐに自室に戻っていった。
渡されたファイルはダルビッシュがサンディエゴ・パドレスで使っている資料だった。「ダルビッシュが元々持ってきたデータのファイルです。それを渡された。受け取って、自分の持っているデータと照らし合わせながらすぐに対策を練りました」
今回のWBCでは試合前に投手と捕手が集まって行うバッテリーミーティングは、あえて行っていなかった。国際大会ではあまりデータを詰め込みすぎても、そのデータ通りに運ばないケースが多く、むしろ投手が持っているストロングポイントで押していった方がいい結果につながることが多い。
「(東京)オリンピックのときも全体のバッテリーミーティングはやらずに、キャッチャーのミーティングに先発投手が入るくらいだったんですね。今回の吉井(理人投手)コーチも『ざっくりでええよ』という感じだったので、それじゃあキャッチャーだけでやろうと。最初はキャッチャー3人を相手に、1次ラウンド前の段階からやっていました」