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オリンピックPRESSBACK NUMBER
26歳で引退、“ハードル日本王者”はなぜ絶頂期に歯科医師の道を選んだのか「次があると思っていたら、あんなに記録は伸びていない」
text by
荘司結有Yu Shoji
photograph byMATSUO.K/AFLO
posted2023/04/08 17:00
東京五輪では110mハードル準決勝にも駒を進めた稀代のハードラー・金井大旺。その直後、なぜ潔く引退の決断ができたのか
「入学当初は医療系の道に進むのが周りより4年も遅れてしまうわけなので、常に『本当にこれでよかったのか』という不安が頭をよぎっていました。特に2年生までは目立った結果も残せなかったので、五輪に出るような選手でもないのに、果たして大学生活を陸上だけに費やす価値があるのかと……。
競技に対して達成感を得られればよかったので、日本インカレで優勝すれば気持ちに区切りがつくだろうと思っていました。入学した時点では卒業まで競技を頑張って、その後はすぐに歯科大学に進学するという人生プランで動いていました」
一度陸上の道を歩みながらも、大学卒業のマスでまた元の進路へと戻るつもりだった。だが、転機が訪れる。大学3年時の2016年日本選手権。リオ五輪の代表選考が懸かるこの大会で、金井は表彰台に食い込んだのだ。
歯科大学進学を“3年延期”
優勝して五輪代表を掴んだ矢澤航(デサント)は法大で共に練習を積んでいた。その背中に近づいたことで、金井は世界の舞台を意識し始めた。
「ずっと一緒に練習してきた矢澤さんがリオに出るのを間近で見て、直感的にもしかしたら次の五輪を目指せるのかもしれないと思ったんです」
このレースが契機となり、歯科大学進学を“3年延期”し、東京五輪を目指すことになる。
東京五輪を区切りに歯科医師を目指す
大学最後の年は関東・日本インカレを初制覇。そして社会人1年目の2018年日本選手権では、日本記録を14年ぶりに更新し、初めて頂点に立った。
金井は当初から「東京五輪を区切りに歯科医師を目指す」と公言していた。新型コロナによる1年延期を機に引退を選ぶアスリートもいたが、その計画を崩すことはなかった。
「延期が決まったときは、ちょうど鹿児島で合宿中でした。もちろん絶望的な気持ちにはなりましたよ。冬季に練習を積めたことで気持ちも高まっていたし、合宿でさらに火が付いた分、もう真っ暗になったというか。でも引退するという考えは全くなくて、数日後には切り替えていましたね」
走り終えた後に「終わってしまったんだな」
迎えた1年越しの東京五輪。日本人初の決勝進出を目指した金井は予選を着順で通過し、準決勝へと駒を進めた。だがその準決勝で、転倒。終盤の8台目のハードルを越える瞬間だった。それでも、もう一度立ち上がり、再び走り始めた。