プロレス写真記者の眼BACK NUMBER
武藤敬司の相手は「最初も最後も」蝶野正洋だった…1984年、2人のデビュー戦を撮影したカメラマンが紐解く「天才レスラーの真実」
text by
原悦生Essei Hara
photograph byEssei Hara
posted2023/02/24 17:30
「昭和プロレスの終焉。さらば、ムーンサルト」2023年2月21日、武藤敬司は東京ドームで引退試合を終えた
でも、武藤は最後の最後に蝶野とやりたかった。1分37秒、ケンカキックを浴び、最後はSTF。リング上の会話にファンは歓喜した。きっといい酒が飲めただろう。
「どうしてもやりたかったことなんだよ。なんだかんだ言って、蝶野とデビュー戦を一緒にやって、締めくくりはやっぱり蝶野にしたかったんだよ。よくアイツはあそこまで動けたよ。大したもんだよ。アドレナリン出ていたよ。うれしかった」
「普通のおじさんになりたい」
武藤は「39年間、途中厳しかったこともあるよ。ケガが絶えなかったし」とキャリアを振り返る。
「思った以上に自分の中でも動けて良かったですよ。ゴールできて良かった。多くのレスラーがこういうふうに引退試合ができていない中で、本当にオレは幸せなプロレス生活でした」
これからの生き方についても語った。
「普通のおじさんになりたい。普通のおじさんになるってなかなか大変なんだよ。人工関節の足も抱えているし、まともに歩けない。普通のおじさんはまともに歩けるからな、ゴルフに行ったり。そういうのもオレはできないんだから。普通のゴルフに行けるような体になりたいですよ。思ったよりも悲しくもなんともないな。ジワジワ来るんだろうな、多分ね。後から」
武藤はずっと前からこう言っていた。
「レスラーっていうのはヒーローじゃなきゃいけない。スーパーマンじゃなきゃいけない」
その思いを、武藤敬司は最後までマイペースで貫き通した。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。