炎の一筆入魂BACK NUMBER
「僕が出るところなんてない」侍ジャパン不選出の広島・西川龍馬が、WBCに微塵も未練を見せない理由《吉田の後輩、誠也と同学年、近藤は自主トレ仲間》
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byJIJI PRESS
posted2023/02/17 17:01
キャンプでバットを振り込む西川。今後のプロ人生を左右するであろうシーズンだけに、端からWBCを意識していなかったのかもしれない
今春キャンプでは大きく、力強くバットを振る意識が見られる。
広島キャンプ名物のロングティーでは、若手の注目を集めた。各クール最終日に行われる恒例メニューは、参加選手が2組に分かれて行われる。年長の1組目で注目されたのは新井監督からボールかごを追加された末包昇大だった。そんな中、一番端の一塁側で打ち続けた西川の弾道は角度良く上がり、右中間フェンスを何度も大きく越えていった。
1かご約200球分を打ち終わった選手が両膝に手をついたり、まだ打ち終わっていない選手に声をかけたりする中、西川は打ち終えてもバットを離さなかった。納得がいかないのか、まだ打ち続ける末包に触発されたのか、後輩にグラウンド裏に残るティーボールを取ってもらい、おかわり。10球近く、右中間へ放物線を描き続けた。
「今は意識的に飛ばそうと思ってやっています。(今後は)体を大きく使っていたものをいかに投手のタイミングに合わせて行くか。あの動きをよりコンパクトにして、実戦の動きにどうつないでいくかですね」
遊撃手として入団した2016年当時は67kgと細身ながら、内角球のさばきなど打撃センスに優れ、代打として.320の打率をマークして優勝に貢献した。その後は年々力強さが増し、外野手に転向した2019年、初めてシーズン本塁打2桁をクリア。計画的に取り組んできた体重の増加に加え、体の使い方による連動性やスイングなどの技術をアップデートし、確実性の高い打力に長打力も加わってきた。
正念場の年に起きた変化
今春も、打撃を磨き続ける。己との戦いに没頭する姿勢に変わりはない。ただ、背番号が5に変わって、目に見えない変化を感じ取ることはできる。
春季キャンプ初日、全体ウオーミングアップの声出しを務めた。キャンプ前の自主トレでは声出し役に指名されても頑なに断ろうとしていたが、新体制船出の円陣の中心に立ち、真っすぐ前を見つめた。
「今年は悔しい思いをしたくありません。全員が優勝、日本一を描きながら、家族一丸で戦えば絶対に強いチームになると思います。今年はマジで、いっちょ、やったりましょう」
新井監督を始めとする首脳陣や、新人3選手や新戦力も集まった参加選手の前で決意表明。定型文のようなあいさつではなく、西川節が効いた、らしいあいさつだった。