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「テメエ、この野郎!」絶対服従の監督に反発、一瞬で消えた契約金、バレかけた朝帰り…近鉄ドラ1・栗橋茂が明かす“破天荒伝説”の真相
text by
岡野誠Makoto Okano
photograph byJIJI PRESS
posted2023/02/13 11:00
1970、80年代に近鉄の主砲として活躍した栗橋茂。筋骨隆々とした肉体から「ヘラクレス」と称された男の野球人生に迫る
一触即発の不穏な空気が流れる。西本監督が三たび「手抜きしやがって」と咎めると、栗橋はブチ切れた。
「テメエ、この野郎! してねえって言ってるだろ!」
監督に襲い掛かりそうな栗橋を関口清治コーチなど4、5人が止めに入った。
「手を抜いたプレーなんて絶対にしないよ。それなのに、怠慢と判断されたからカチンときたんだろうね。でも、試合が終わると急に冷静になって、ああやっちゃったなと落ち込んだ。二軍行きだろうし、トレードに出されるかもしれないと思った」
「この人について行こうと思った」
疎な観客が帰路に向かい、選手が続々とベンチを後にする。6基の照明灯が徐々に消えていく。薄暗くなるにつれ、心の重荷はさらに増した。栗橋はなかなか立ち上がれなかった。
「なんとか腰を上げて、監督室に謝りに行った。手前にコーチがいて、奧に西本さんがいた。誰かが『監督、クリ来てますよ』と伝えたら、西本さんが『おー』って手を挙げてくれた。『すいませんでした』と頭を下げたけど、心は晴れなかった」
翌日、日生球場の狭い通路で西本に遭遇してしまう。負い目を感じている栗橋は俯きながら、「おはようございます」と声を振り絞った。
「西本さんは何も言わなかったけど、すれ違う時にお尻をポンって叩いてくれてね。ああ、この人について行こうと思った。すごく温かみを感じた」
西本監督を胴上げしたい――。栗橋は強く思った。〈つづく〉
※1 出典:1977年3月21日号/週刊ベースボール
※2 出典:1981年10月3日付/日刊スポーツ大阪版。「西本語録」より。1978年前期、天王山の対阪急戦を前に発言