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韓国戦で代打決勝2ラン、福留孝介28歳はあの打席で何を考えていたのか「何とかしようとかは考えていない」「あそこで自分のスイングをするために…」
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byNaoya Sanuki
posted2023/03/10 11:03
2006年、第1回WBC準決勝、韓国戦――。それまで打率.105に終わっていた天才打者は”あの打席”で何を考えていたのか
それぞれが悩める現実から逃げず、向き合い、積み上げた歩みがあった。美しき一瞬はあくまでその一部なのだと、それこそが唯一、ビハインドゲームを勝つ方法なのだと、そういう自負が福留にはある。
WBC優勝から2日後の朝、福留は東京駅から名古屋へと戻る新幹線に乗っていた。前夜帰国したばかり。スポーツ新聞を開き、日本中がこれほど熱狂していたのかと驚いていた。
その車中、座席通路ですれ違ったある老婦人からにこやかに声をかけられた。
「福留さん、お疲れ様でした。本当にありがとうございました」
やっぱり、無理して行って良かったよ
新幹線は名古屋へ到着しようとしていた。駅前広場には日本を救った英雄を迎えようと、見たこともないような人だかりができていて、警察が対応に追われていた。
「あのおばあさん、普段は野球なんか見ないんだろうね……。いろいろあったけど、やっぱり、無理して行って良かったよ」
福留はようやく晴れ晴れとした笑みを浮かべると、自らを待ち受ける群衆の中へと消えていった。
<「苦悩」編もあわせてお読みください>
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。