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韓国戦で代打決勝2ラン、福留孝介28歳はあの打席で何を考えていたのか「何とかしようとかは考えていない」「あそこで自分のスイングをするために…」

posted2023/03/10 11:03

 
韓国戦で代打決勝2ラン、福留孝介28歳はあの打席で何を考えていたのか「何とかしようとかは考えていない」「あそこで自分のスイングをするために…」<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

2006年、第1回WBC準決勝、韓国戦――。それまで打率.105に終わっていた天才打者は”あの打席”で何を考えていたのか

text by

鈴木忠平

鈴木忠平Tadahira Suzuki

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Naoya Sanuki

 2006年の第1回WBC準決勝・韓国戦。日本野球の威信をかけたゲームで全てを救うアーチを放ったのは最も逆境にいた男だった。なぜ彼はあらゆるビハインドを逆転できたのか。
 前編に引き続き、後編は韓国戦の後から始まる。選手たちが食事会をしていたところ……<全2回の後編/前編は#1へ>
(初出:[土壇場の代打2ラン]福留孝介「ビハインドゲーム」2006.3.18 『Number』980号/2019年6月13日発売)

メキシコの番狂わせにより「解散式」は決起集会に

 ところが夕刻、代表スタッフから連絡がきた。メキシコが番狂わせを起こした。つまり、日本の準決勝進出が決まったのだ。

「食事会はもう完全に決起集会に変わっていた。よし、みんなでやってやろうと」

 不思議だった。自らの内面世界はずっと変わっていないのに、周りの景色は明から暗、そしてまた明へとめまぐるしく変わっていく。福留に時間は残されていた。ビハインドゲームはまだ終わっていなかった。

王監督が去った後、谷繁がかけた言葉

 3月18日。陽が落ちたペトコパークで準決勝が、3度目の韓国戦が始まろうとしていた。試合前、王監督が歩み寄ってきた。

『スタメンを外すから。だけど、大事なところで(代打で)いくからな』

 これまで主軸を固定して戦っていた指揮官がついに動いた。アトランタ、アテネと常に代表チームの真ん中で国際大会を戦ってきた男が外されたのだ。

 このやり取りを見ていた谷繁は、王監督が去った後、福留を呼び止めた。

『絶対にチャンスがくる。だから、準備だけはしっかりしておけよ』

予感めいたものがあったんだよ

 じつは谷繁にはある確信があった。

【次ページ】 6番の今江敏晃に代えて、代打・福留――

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