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WBCを一度は辞退…“絶不調”福留孝介はなぜ“あの代打決勝弾”を放てたのか?「打撃フォームを変えていて…」「あの人たちの影響もあった」
posted2023/03/10 11:02
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
Naoya Sanuki
(初出:[土壇場の代打2ラン]福留孝介「ビハインドゲーム」2006.3.18 『Number』980号/2019年6月13日発売)
やっぱり断るのも礼儀だったかもしれないなと考えた
バスはアナハイムから南へ向かっていた。カリフォルニアの明るく乾いた空の下、美しい海岸線を走ったはずのその車中のことを、福留孝介はほとんど覚えていない。
記憶にあるのは、力を発揮できるか不透明な状態で日の丸を背負った自らの決断と、その結果に対するやるせなさだけだった。
「やっぱり断るのも礼儀だったかもしれないなと考えたよ。もう少し、ちゃんとした形で代表に参加できていたらって……」
残った打率.105という数字
その前の夜、日本代表は事実上の終戦を迎えていた。準決勝進出をかけた2グループ各4チームによる2次ラウンド。その最終戦で韓国に敗れたのだ。1勝2敗。同グループのアメリカ対メキシコ戦でメキシコが2点以上取って勝てばという可能性は残されていたが、メジャーの一流がそろったアメリカに、すでに敗退の決まっている3A選手中心のメキシコが勝つ可能性は限りなく低い。だから韓国に敗れた瞬間、選手たちはベンチで呆然としていた。マウンドに太極旗を突き刺して歓喜する宿敵を見つめ、すべての終わりを受け止めていた。
このゲームで、3番打者としてスタメン出場した福留は2三振のあと、第3打席で代打を送られた。1次ラウンドから19打数2安打、打率.105。それが現実だった。
そもそも福留はWBC日本代表への参加を辞退していた
「打撃フォームを変えている時だったから、まるで自分のものになっていなかった。毎打席、毎打席、感覚が違って、それが納得できなかった。どのタイミングで始動すればいいのか、ずっと探している感じ。出ると決めた以上、今の状態でもできることをやるしかない、何が何でも間に合わせるしかないと腹を括ったんだけど……」