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「左SBとして世界トップ5に入る」
長友獲得に固執したインテルの実情。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2011/02/04 12:30
ハレルヤの賛美歌が鳴り響いた。
各クラブのオフィス前やホテルを結んで、冬の移籍市場をリアルタイム中継した衛星チャンネル『SKYイタリア』では、移籍が成立するたびに祝福の賛美歌を流す。
1月31日、ドーハでのアジアカップ優勝からわずか48時間後、長友佑都がインテルの一員となった瞬間も、そのメロディが高らかに鳴らされたのだった。
インテルについて、もはや多くの説明は必要ないだろう。昨季、欧州チャンピオンズリーグを含む3冠を達成。12月のクラブW杯も制し、世界中のクラブの頂点に立った。セリエAを5連覇中であり、FWエトーやMFスナイデルら年俸総額約138億円の一流プレイヤーばかりを揃えた正真正銘のスター軍団だ。
「ユベントス、ミランと並ぶビッグ3の一角に移籍する最初の日本人」というニュースバリューはイタリアでも大きく、翌2月1日付の『ガゼッタ・デロ・スポルト』1面見出しには“Inter alla giapponese, Ecco Nagatomo(=日本化のインテル、長友を獲得)”の文字が躍った。移籍市場を伝えるTVニュースでも最終日に決まったFWマトリのユベントス移籍に次ぐ大きな扱いで、報道では長友獲得が純粋に戦力補強の観点から行われたということが強調された。
“インテルがどれだけ補強するか”が今冬移籍市場の焦点だった。
ベニテス監督を迎えた今季、インテルは大量の故障者の影響もあって、苦しい前半戦を強いられた。
補強方針をめぐって指揮官と上層部との間に軋轢が生じ、ついに2者はクラブW杯優勝後に決裂。クリスマスとともに、レオナルド前ミラン監督が電撃就任した。
相思相愛だったレオナルドの就任によって「逆転スクデットはまだ可能だ」とモラッティ会長は反撃の機運を高めた。
“インテルがどれだけ補強するか”は、今冬移籍市場の焦点の一つだった。
昨季鉄壁の守備を誇ったサムエルとルシオのセンターバック・コンビが長期離脱し、高齢化が進むDF陣のテコ入れが急務とされた。特に必要だったのは、即戦力の左サイドバックだった。
昇格組チェゼーナは、つねに降格圏をさまよう惨状にあったが、その中にあってDF長友の運動量とスピード、そして無尽蔵のスタミナは徐々に知られるところとなった。負け試合でも長友の存在感は群を抜いており、わずか半年の間に、彼はセリエAで無名の存在ではなくなっていた。