こうして、オックスフォードを目指す過程で、オリンピックが出てきた。ただ、丸尾にとって、この2つは別物である。

「お前何考えてるんだ？って言われるのはありますね。よくわかんないじゃないですか。留学してたのに、いつの間にかセブンズの日本代表で世界と戦ってる。『お前やることどんどん変わるし、軸がないな』って思ってる人はいっぱいいると思うんですけど、僕は自分の軸通りにしか生きてない。だから、そんな声は全然気にならない。

　新しく成し遂げたいことを見つけただけで、何ひとつ諦めてない。留学前に立てたオックスフォードでブルーを取るっていう目標からはブレていないし、その過程でオリンピックが出てきたわけで。オックスフォードとは別で、オリンピックでメダルを取りたい。どっちも成し遂げたいんです。繋がるけど、この2つは僕の中でそれぞれ独立していて。

　挑戦して、どっちもダメだったら何も得られないかって言ったらそうじゃない。ここで挑戦しなかったら絶対に後悔するし、それこそ、何も得られない。実際、僕は去年落ちたけど、それで得るものはあったので」

©︎Takuya Sugiyama

約2年ぶりに立った国立のピッチ

　10月、丸尾は7人制ラグビー日本代表として、東京オリンピック・パラリンピック開催1周年記念イベントでフィジーとの親善試合に出場。1年9カ月を経て、国立競技場のピッチに帰ってきた。

　丸尾にとって、国立は特別な場所になっていた。早大3年時には優勝。荒ぶるを歌った。改修後、ラグビーの試合として初めて開催された試合だった。主将を務めた4年時の決勝は、そこで負けた。

　国立で勝ち、国立で負けた。人生最大の喜びと悔しさを経験した場所にこうして戻るとは、丸尾自身も想像していなかった。

　外の世界に出て、独りになって得たもの。それは、自分はまだまだ未熟な人間だと気づけたことだった。

©︎JIJI PRESS

「就活で『早稲田のキャプテン』って書けば大体『おおー』ってなるかもしれない。でも、海外では誰もそんなの知らないですよね。飛び込んで、レッテルが全部はがれた状態で生きてみたからこそ、自分は別に大したことないってわかったんです。だからこそ、もっと頑張らなきゃいけないって思えました」

　そして、振り返れば、今までのすべてが繋がって、一本の線になっていた。

「スティーブ・ジョブズがスタンフォードの卒業式で言っていた『点と点が線になる』。大学4年の決勝で負けたとき、当時のメンタルコーチから教えてもらって、まさにその通りだなって。いつか、何かに繋がっている。

　最初はことごとくダメだったんですけど、結果よかったのかなって思っていて。あの時、もし綺麗にオックスフォードにいってたら、そのまま就職して、絶対ラグビーに戻っていないんですよ。オリンピックを目指すこともできなかっただろうし。やっぱり落ちたことも含めて全部に意味があるし、今それをすごく大事にしています」

　丸尾は2024年パリオリンピックの出場を目指して、7人制ラグビーを続けている。オックスフォード入学のための勉強も続けている。

　オリンピックは夏に開かれる。7人制ラグビーでメダルを獲得して、そのままオックスフォードに入学。バーシティマッチに出場して、ブルーでラグビー人生を締める。それが、丸尾がいま描いているゴールだ。

　称賛も、否定も意味がない。ただ、丸尾崇真という生き方があるだけだ。

　オックスフォードとオリンピック。誰も成し遂げたことのない2つに向かって、丸尾は道を拓いていく。

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