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「夜遊び朝帰りが日常」「決起ディナーで罵倒合戦」も…なぜ「90-91のサンプドリア」はサッカー史最大級の番狂わせを起こせたか 

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弓削高志

弓削高志Takashi Yuge

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photograph byAlessandro Sabattini/Getty Images

posted2023/01/13 11:02

「夜遊び朝帰りが日常」「決起ディナーで罵倒合戦」も…なぜ「90-91のサンプドリア」はサッカー史最大級の番狂わせを起こせたか<Number Web> photograph by Alessandro Sabattini/Getty Images

90年代初頭のサンプドリア。マンチーニ、ビアッリ、パリューカらまさに多士済々のメンバーがそろった魅惑のチームだった

 10節のデルビー・デッラ・ランテルナ(ジェノバ・ダービーの別名)で宿敵ジェノアに敗れ、続くカリアリ戦に手痛いスコアレスドローを喫した。

 年が明け、91年1月17日に湾岸戦争のイラク空爆が始まった頃、サンプドリアはトリノとレッチェに2連敗し、首位から4位へと陥落した。若い選手たちは頭に血が上りやすく、トリノ戦では守護神パリューカが主審へ猛抗議して2試合出場停止処分を受けた。

 ボスコフ監督は「連敗するようなチームは優勝を争う器でないということ」と三味線を弾きながら、選手たちの自覚を待った。

 海沿いのレストランでの決起ディナーは食事中こそ穏やかだったものの、食後酒が入ったところで罵り合いが勃発。翌日以降もギスギスした空気は続いたが、余計な力みを発散した彼らはホームでユーベとミランを撃破し首位を奪回、しぶとく結果を拾っていった。

さあ打ってこいよ!お前らは、絶対にゴールできない!

 9歳からクラブ生え抜きの若手DFマルコ・ランナ(現サンプドリア会長)は、怪我で戦線離脱した主将ペッレグリーニの穴埋め役だったが、主将が回復してももうポジションを渡さなかった。たくましさを増したチームに、膝十字靭帯故障で今季絶望と思われていたT・セレーゾも奇跡的に復帰、役者は揃った。

 カンピオナートは大詰めを迎え、勝点は首位サンプの「45」に対し、追う2位インテルが「42」。31節、敵地「サン・シーロ」での直接対決は、天王山にふさわしい激闘となった。

 逆転へもう後がないインテルは序盤から猛攻を仕掛けるも、鬼神と化したGKパリューカがあらゆるシュートを弾き出す。46分にFWマンチーニとインテル主将ジュゼッペ・ベルゴミが互いに手を出し、ともに退場したことで試合はさらにヒートアップ。60分、サンプMFジュゼッペ・ドッセーナが先制弾を決めたまでは良かったが、71分にインテルへPKを与えてしまう。

 白星の勝点がまだ2ポイントだった時代だ。同点とされれば、戦況はひっくり返る。だが、強心臓のサンプ守護神パリューカは、相手キッカーのマテウスをまったく恐れなかった。

 “打ってこい! さあ打ってこいよ! お前らは今日、絶対にゴールできない!”

 正面に蹴られたボールに反応してがっちり抑え込み、インテルを意気消沈させると、5分後、ビアッリが優勝の行方を決定づけるチーム2点目を叩き込んだ。

「サンプの優勝を見るまでは死ねん」の執念

 初優勝まで残り勝点1で迎えたホーム最終戦、本拠地「ルイジ・フェラーリス」での33節レッチェ戦には満員の4万人が詰めかけた。ジェノバ市内のあちこちのアパートや路地に、青・白・赤・黒のクラブカラーで染め上げたシーツがひるがえった。

 復帰したT・セレーゾがキックオフからわずか2分で先制点を上げると、スタジアム中の歓喜は爆発した。MFマンニーニとFWビアッリが続き、前半のうちにサンプは3点をリードした。もはや、勝負はついた。

 感極まったマントバーニ会長は、中継のマイクを向けられると「言葉にならん。言葉にならん」と2度くり返した。81年にスタジアムで心筋梗塞に倒れ、米国でバイパス手術を受けて以来「サンプの優勝を見るまでは死ねん」が口癖だった。執念は実った。

(翌シーズン、“セリエA王者”サンプドリアのUEFAチャンピオンズカップ準優勝を見届けた後、93年秋に会長はこの世を去った。葬儀には2万人が参列し、87年に会長が創設した少年少女の大会は、現在も地元ジェノバで愛される一大イベントとして定着した)

 サンプドリアが獲得したスクデットは、史上最大の大番狂わせと呼ばれている。

【次ページ】 ビアッリが「給料倍増」のミランを断ったワケ

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