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「首脳陣が仲の良いチームは弱い」元近鉄投手が語る対西武“10.12の裏側”…決戦直前に大ゲンカの仰木と権藤「早く決めてくれ」「黙ってろ!」
text by
岡野誠Makoto Okano
photograph byNaoya Sanuki
posted2022/12/27 11:02
当時の近鉄監督・仰木彬(手前)とヘッドコーチ・中西太(奥)
2回裏、高柳はビル・マドロックに先制ソロをレフトスタンド上段に叩き込まれる。メジャーリーグで4度の首位打者を獲得していた37歳は鳴り物入りで入団したものの、打率2割6分台と低迷し、クビ確実だった。その外国人選手が“狂犬”の異名を思い出したかのように一発を放った。
「それまで高めで打ち取っていたんですけど、低めの得意なゾーンに投げちゃったんですよね。完全な失投でした。その後は抑えたんですけど、3対1と逆転してもらった7回裏に岡部(明一)さんに一発を喰らった。2点リードで、ちょっとホッとして不用意に投げてしまった」
高柳は、春日部工業の1年先輩である7番・古川慎一にこの試合2本目のヒットを許して降板。10月10日から中3日、中4日で先発してきた肉体は限界に達していた。
「チェンジアップをレフト前に打たれました。あんな球を投げている時点で疲れていたんでしょうね。高校の時、古川さんは超スラッガーで打っているイメージしかない。憧れもあったし、この人には敵わないと脳裏に焼き付いていたから、弱気になっていたのもあります」
抗議の時間が…悲劇の幕切れ
一進一退の攻防で刻々と時間が過ぎていった。近鉄に9連敗中だったロッテにも意地があった。
同点で迎えた9回裏、近鉄は8回からマウンドに上がっていたエースの阿波野が二塁へ牽制を投げてアウトにする。しかし、二塁走者の古川がセカンドの大石第二朗に体を押されていたと主張。ロッテベンチから有藤監督が飛び出し、審判への抗議が始まった。
「早く終わらないかなとは思いましたけど、こっちが何を言ったって仕方ない。引っ込まないんだから、どうしようもないですよね」
有藤監督が引き下がろうと考えた時、二塁ベース付近までやって来た仰木監督が「もういいだろ」と促した。この一言に、有藤監督は「自分たちだけで野球をやっているのか!」と憤慨。抗議は約9分にも及び、1イニング分を費やした格好となった。同点の延長10回表一死一塁から羽田耕一が併殺打に倒れ、試合は延長10回引き分け。この瞬間、近鉄の優勝は消えた。4時間を超えれば新たなイニングに入らないというパ・リーグの規定にも阻まれた悲劇だった。