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「首脳陣が仲の良いチームは弱い」元近鉄投手が語る対西武“10.12の裏側”…決戦直前に大ゲンカの仰木と権藤「早く決めてくれ」「黙ってろ!」
text by
岡野誠Makoto Okano
photograph byNaoya Sanuki
posted2022/12/27 11:02
当時の近鉄監督・仰木彬(手前)とヘッドコーチ・中西太(奥)
連勝で優勝が決まる「1試合目」
連勝すれば優勝というロッテとのダブルヘッダー第1試合、近鉄は3年連続2ケタ勝利の小野が先発した。しかし、初回に愛甲猛に先制2ランを打たれてしまう。
「心臓に毛が生えてるようなヤツなのに、『生まれて初めて緊張した』と言ったんですよ。小野がそんな状態で、僕は(第2試合の先発として)投げられるのかなと思いました。仰木さんはすぐに雰囲気を察して、マネージャーに『高柳を奥に連れていけ。試合を見せるな』と指示した。よく勘付くなと驚きましたよ。途中からロッカーにほぼ閉じ込められた状態になりました」
近鉄は終盤に代打策が的中し、4対3で逆転勝利を収めた。いつもは閑古鳥の鳴いていた川崎球場は試合途中から観客で溢れ返り、ライトスタンド奥にあるマンションでは球場に入れなかった人たちが階段や屋上から戦況を見つめていた。
「小野が緊張していると聞いた時はちょっとビビりましたけど、第1試合が終わった後に村田(辰美)さんとスタンドを眺めながら外野をランニングしたら、本当に気持ち良かったんですよね。満員の中で投げられるんだと。最高の気分で緊張はゼロでした」
高柳が先発…運命の「2試合目」
異様な雰囲気のまま第2試合が始まった。初回、高柳は2番の佐藤健一に死球を与えるとマウンド上で不服そうな表情を見せた。
「今のは避けられるだろうと思ったんですよ。ロッテのベンチからは『帽子取って謝れ!』とヤジが飛んできました。謝らなければいけないルールがあれば謝りますけど、こっちも痛いですからね。テイクワンベース与えてるのに、なんで謝らなあかんのっていう」
ロッテベンチからはトレーナーだけでなく、有藤道世監督も心配そうに駆け寄ってきた。なかなか一塁に向かわない佐藤に業を煮やした仰木監督がホームベース付近に来て、「痛いなら代わればいいじゃないか」と声を掛けた。両チームとも殺気立っていた。