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[歓喜の地元より]ブエノスアイレスは歌い続けた
posted2022/12/22 07:02
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph by
Getty Images
W杯の熱狂の渦に飲み込まれるべく、筆者はまずブラジルに入り、そしてアルゼンチンへと向かった。英雄メッシがトロフィーを掲げるまでの約10日間、ブエノスアイレスに滞在して目にしたものとは。
試合を見られる場所を探し求めて、映りの悪い駐車場のテレビにありついた私は、心臓に悪い3時間の激闘が終わった瞬間、仲間たちと街のシンボルであるオベリスクへと駆け出した。
仲間というのは駐車場の管理人とその友人、そして私と同じようにテレビを見つけられずに通りをさまよったカップルと物売りの若者の計6人。メッシが、そしてディマリアがゴールを決めるたびに、私たちは抱き合って絶叫し、薄暗い駐車場には確実に絆が生まれた。
PK戦になると唯一の女性が感極まり、テレビを直視できなくなってクルマの陰へと消えていった。そして私たちが絶叫するたびに飛び出してきては、彼氏と熱い抱擁を交わし、また姿を消す。それは駐車場のお約束となり、アルゼンチンはついに36年ぶりとなる栄冠に到達する。
「おーい! 36年ぶりだぞー!」
空色と白の旗を振りまわし、みんなと一緒に飛び出した通りは、試合中の静寂が嘘のように、にわかに騒がしくなった。
ベランダにわらわらと老若男女が顔を出し、太鼓やフライパン、バケツを騒々しく打ち鳴らした。もちろん歌声も。
「若者たちよ、俺はアルゼンチンで生まれた、ディエゴとリオネルの国だ……」
ブラジルの敗退を見届けて、ブエノスアイレスに来てから10日弱。それはテレビや街角で死ぬほど聞かされ、耳にこびりついたフレーズである。決勝前夜も通りで若者たちが盛大にがなり立てたので、あまり眠れていない。若者たちは昂ぶりすぎて、眠っている場合ではなかったのだろう。