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「近年ではほかに例がない」ジャパンカップ制覇、ダートから転身したヴェラアズールの“成り上がり”…1番人気シャフリヤールはなぜ負けた?
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byPhotostud
posted2022/11/28 17:00
11月27日、GIジャパンカップを制したヴェラアズールとライアン・ムーア
ヴェラアズールの「成り上がり」
それにしても、ヴェラアズールの「成り上がり」はとてつもない。
1歳の秋に左トモ球節の骨片摘出手術を受け、2歳になってからも右前脚の深管の痛みや左前脚の骨瘤など脚元の不安を抱え、なかなか順調に調教を進められず、デビューは3歳になった一昨年の3月と遅くなった。
脚元のことを考えてダートでデビューし、同年6月の未勝利戦で初勝利。その後も今年の1月までダートを使われ16戦2勝2着4回3着3回と、まずまずの成績を残していた。渡辺調教師も厩舎スタッフも、本当に適性があるのは芝だと見ていたのだが、ダートで結果が出ているだけになかなか芝を試すチャンスがなく、17戦目、3月の淡路特別でようやく芝に切り替えることができ、早速勝利をおさめた。
そして、芝での5戦目となった前走の京都大賞典で重賞初出走初勝利を挙げた。つまり、芝路線に変更してから8カ月強、6戦目にしてジャパンカップを勝ってしまったのだ。それも、今回も含め、芝での6戦(4勝)すべてが上がり最速なのだから恐れ入る。
「近年ではほかに例がない」馬
デビューから古馬になるまでダートばかりを使われてきた馬によるJRAの芝GI制覇というと、1989年の安田記念や90年のスプリンターズステークスを制したバンブーメモリーが思い出されるが、あの馬がダートで15戦したのち芝路線に変更したのは4歳の春だった。この馬のように5歳になってからというのは、近年ではほかに例がない。
前述したように、父のエイシンフラッシュにとっても、渡辺調教師にとっても、これが初めてのGI制覇となった。エイシンフラッシュは4度ジャパンカップに出走したが、8、8、9、10着と勝てず、渡辺調教師も騎手時代、2001年にナリタトップロードで一度だけ参戦したが、追い込み及ばず3着に敗れている。その悔しさを、世界の名手が「とても才能がある」と絶賛する駿馬が晴らしてくれた。
4頭の日本馬が惨敗した今年の凱旋門賞のあと、「挑戦するなら芝でもダートでも強い馬がいいのではないか」という声も挙がったが、この馬がまさにそれだ。馬主のキャロットファーム・秋田博章代表によると、今後のローテーションは馬の状態を見て決めるとのことだが、先々の夢が膨らむ。