オリンピックへの道BACK NUMBER
「取材してきたけどインタビューできない…」五輪3大会担当、大橋未歩(44歳)が感じていたジレンマ「局アナとしては限界を感じた部分だった」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byKeiji Ishikawa
posted2022/12/10 11:01
オリンピックは3度担当、スポーツとも縁の深いアナウンサーの大橋未歩
メインキャスターを務めるのはタレントが大半
オリンピックの中継ではタレントや元アスリートがメインに立つことが大半だ。メダリストは各局のインタビューを受けるのが通例だが、そのときのインタビュアーとして立つのもそうしたメインキャスターになる。
「年単位の取材で積み重ねてきたものはありましたが、自分で聞けない時もあって。悔しかったです。フリーランスになった今なら分かる部分もあるんです。芸能人の知名度や話術によって選手からより良い情報が得られることも多々あります。でも当時、局アナとしては限界を感じた部分だったかもしれないですね」
「悔しさを感じた」という言葉に違和感はなかった。
オリンピックまでの大会の場などで取材に向ける熱や真剣さは他者と比べても際立っていたし、アスリートたちへのインタビューでも話をしっかりと掘り下げていた。それも真摯な姿勢あってのことだ。努力を重ねた時間を取材者として蓄積していて、同じ取材する立場にいる者に並々ならない力量を感じさせもした。それを思うように活かせなければ、悔しい、となるのも無理はなかった。
アナウンサーのジレンマ
悔しさを解消しようと試みたとも言う。
「質問事項を書いてインタビュー台本みたいな物を作ってメインキャスターにお渡ししていました。アナウンサーがするのは珍しいことだと思うんですけれども、指を咥えて『いいな』と見ていると、たぶんもっとストレスがたまっていたと思いますし、自分の足で稼いだ取材の材料をお渡しして、ちょっとでも情報を共有して選手からよりいい言葉を引き出せたらいいな、という思いがありました。それが私なりのジレンマの解消法でした」
そして付け加えた。
「アナウンサーだけでなく組織にいる以上、やっぱりどの仕事にも、そういうジレンマはあると思うんですよね」
組織の一員としての宿命であることを客観的に捉えていた大橋未歩だったが、のちに新たなキャリアをスタートさせることになる。契機となったのは、自身を襲った出来事だった。【つづく】
(撮影=石川啓次)
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