甲子園の風BACK NUMBER
大阪桐蔭“エース主将”は13年ぶり「松尾さんの安心感」がない新チームで前田悠伍が見せた別格ピッチング「まだまだ力がない。でも…」
text by
沢井史Fumi Sawai
photograph bySankei Shimbun
posted2022/11/17 06:02
エースに加え「主将」という重責も背負う大阪桐蔭・前田悠伍。葛藤を乗り越え、チームを近畿大会優勝に導いた
そんな前田の姿を見ていた西谷浩一監督は決断する。「もっと背負ってもらわないといけない」という理由で主将に任命。大阪桐蔭のエースで主将……さすがに荷が重いと感じるが、前田は毅然とした表情でこう返した。
「確かにしんどいことはあるんですけれど、2年生全員でやっていこうと言い合っています。周りの力も借りながら、気づいたことはみんなにどんどん声を掛けていって“自分発信”で何とかやっていきたいです」
覚悟を決めたあとは自分から率先して仲間たちに声を掛け、行動で示す前田の姿があった。ベンチにいる時も同じだ。自分が何かを進んで発信することで、チームの活性化を図るよう努めた。
松尾汐恩の引退、バッテリーミスも散見
前田は府大会からマウンドでもフル回転した。非公開だった4回戦までの3試合のうち、2試合に登板。5回戦の東海大大阪仰星戦では9回を投げ切り、15奪三振。準々決勝の東大阪大柏原戦では5回を投げて8奪三振、2安打無失点。決勝の履正社戦でも7安打されながら13奪三振完封と宿敵を沈黙させた。
5回戦以降、4試合全てのマウンドに立った前田の奪三振の数は46個。前田が別格の存在であることをしっかり“数字”で見せつけたのだった。
しかし、取り巻く環境が大きく変わったこの秋は葛藤もあった。エース番号を背負い、主将になったことだけでなく、ずっとバッテリーを組んできた松尾汐恩(DeNA1位指名)が引退したことも大きかった。
「今まで松尾さんに受けてもらって、ものすごく安心感がありました。嫉妬ではないのですが、(U-18日本代表で)他のピッチャーとバッテリーを組んでいるのを見ると、何とも言えない気持ちになって……(笑)」
経験豊富な松尾がそばにいる安心感は計りしれない。後を継いだ女房役の南川幸輝も力があることに変わりないが、公式戦の経験はほぼない。当初はバッテリーミスなども散見された。それでも、経験のある前田が引っ張る形で快投を重ねていった。