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「韓国のテレビ番組から“監督”のオファーが…」元北朝鮮代表・鄭大世はなぜ引退後に韓国で芸能活動を?「自分が好きだから、ずっと“センター”にいたいんです」
text by
杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byYuki Suenaga
posted2022/11/08 11:02
今季引退を発表した鄭大世。なんと今後は韓国で芸能活動を行っていくという。インタビューでその理由と勝算を聞いた(全3回のうち、第3回)
先のことを考えると、不安しか生まれない。過去を振り返れば、後悔しか浮かばない
――現役を引退したいまは、後ろめたさもなく、芸能活動ができますね。話を聞いていると、さしあたっての将来への不安はなさそうです。
鄭大世 そんなことはないですよ。フリーですから、この先、どうなるかは分かりません。仕事がまったくなくなる可能性だってあります。夜になると、心配に駆られて、また朝が来れば、晴れやかな気持ちになるという繰り返しです。先のことを考えると、不安しか生まれない。過去を振り返れば、後悔しか浮かばない。僕は幸せな家族に恵まれ、経済的に苦労もしていない。欲しい物も手に入れた。それなのに、幸福度は低い。常に飢えがあるんですよ。ふとしたときに、無駄に人と比べてしまうこともあります。同じ年齢の長谷部誠は、いまもドイツのフランクフルトでチャンピオンズリーグに出場しているけど、僕は契約満了で引退。何で彼と比べる必要があるんだと自分でも思いますよ。同世代はほとんど引退しているのに……。プロサッカー選手としては、現状に満足しないことが、プラスに働いたかもしれませんけどね。
幸せそうに生きていたら成功がついてくる人生がいい
――では、これからの人生もどん欲に上を目指して生きていくのでしょうか。
鄭大世 いや、今後は笑っているから幸せになる、いまが幸せだから成功すると思って、生きていきたいです。幸せそうに生きていたら成功がついてくる人生がいい。自分の子どもには、僕と違って自己肯定感を高めてほしいから、ずっと褒めています。努力する過程を評価してあげたい。叱るときも感情を抜きにして、しっかり言葉で説明する。ヨーロッパでドイツ人選手たちを見て来て思ったのは、みんな自分に自信を持っている。これって何かといえば、家庭教育だと思うので、僕はそこを大事にしたい。親だからといって偉そうにはしないし、頭ごなしに否定もしない。子どもは親の持ち物ではないので、友達のような関係でいるようにしています。大人になっても一緒に並んで歩きたいし、飲みにも行きたいから。欲深い人のほうが成功するかもしれないけど、心は渇いたままだと思います。僕のようにね。自分の幸せは自分で決めるもの。幸せと思えるかどうかです。たとえ、成功をつかまなくても、現状に幸せを感じることができれば、心は満たされるはずです。
――将来は、日本での活躍も見たいです。
鄭大世 韓国での生活は5年を目処に考えています。もしかすると、軌道に乗ればもっと長く韓国で働くかもしれませんが、トレンドはどこかで終わりを迎えます。そのあとは、日本で監督をやってみたいですね。こだわりは持っているので。また戻ってくる日を楽しみにしていてください。
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