猛牛のささやきBACK NUMBER
「あの場面、結構テンパってました」オリックス宇田川優希“日本シリーズ2者連続三振”の舞台裏…若月、宗に感謝する理由とは?
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byNanae Suzuki
posted2022/11/07 11:03
日本シリーズ第4戦で杉本、山崎とお立ち台に上がった宇田川(中央)。夏に支配下登録を勝ち取ると、強力リリーフ陣の一員として日本一に貢献した
宇田川は、仙台大4年だった2年前、育成ドラフト3位で指名された。NPB球団からの調査書には、育成指名の場合は入団しないと書いていたため、社会人野球に進むか悩んだが、入団を決意。2年目の今年7月28日に支配下登録された。
一軍でのリリーフ経験はわずか3カ月足らずだが、とてもそうは思えない“相手に立ちはだかる壁”感がある。初体験の日本シリーズでも、「シーズン中とそんなに心境は変わらない。特別な緊張感はない」と話していた。
最速159キロで重量感のあるストレートと、2種類の、落差の大きいフォークと小さい変化でカウントを取るフォークが武器。若さが顔を出すこともあるが、あの試合は捕手・若月健矢のリードにも助けられた。
5回1死三塁から、まずは2番・山崎晃大朗をフォークで空振り三振。3番・山田哲人に対しては、150キロ台中盤のストレートで押した。2球で追い込み、3球目、若月が出したフォークのサインに、宇田川は首を振ってストレートを投げ、ファール。
4球目のサインを出す際、若月は両手で大きな輪を作るようなジェスチャーをしてから、再びフォークのサインを出し、宇田川はうなずいた。
「自分はまっすぐで三振を取れるという自信があったし、まっすぐで三振を取りたかったので、(3球目に)一度は首を振ってまっすぐを投げたんですけど、その後に若月さんが『冷静になれ。周りを見て』みたいなジェスチャーをしてくれたので、自分も冷静になれました」
4球目のフォークはボールになったが、5球目、フォークで見逃し三振に取った。
腹をくくった捕手・若月「思い切ってこい!」
ランナー三塁、しかも1点差の場面でフォークのサインを出すのは勇気がいる。しかも宇田川のフォークは揺れながら落ちる独特の軌道。それでも若月は腹をくくってサインを出し、叩きつけられたワンバウンドの球も体で止め、決して後ろにそらさなかった。
「もう必死というか。『全部止めるから、思い切ってこい!』みたいな感じでしたね。だって(フォークを)投げさせなかった時の後悔のほうが大きいと思うから。僕が後ろにそらしたら、僕が悪い、で終わる。そこはもう仕事だと思って。後悔するんだったら、自分が後ろにやって後悔したほうがまだいいと思うので」