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「あの場面、結構テンパってました」オリックス宇田川優希“日本シリーズ2者連続三振”の舞台裏…若月、宗に感謝する理由とは?
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byNanae Suzuki
posted2022/11/07 11:03
日本シリーズ第4戦で杉本、山崎とお立ち台に上がった宇田川(中央)。夏に支配下登録を勝ち取ると、強力リリーフ陣の一員として日本一に貢献した
一方で、宇田川が回をまたいだ6回の先頭、4番・村上宗隆に対しては、6球すべてストレート勝負。宇田川は試合後、こう明かした。
「6回のマウンドに上がる前に若月さんに、『村上選手、ストレート弾けてますか?』って聞きに行ったんです。若月さんが『弾けてないからまっすぐで行こう』と言ってくれたので、自分もまっすぐしか頭になかった」
怖いもの知らずの剛腕と、シーズン56本塁打の日本人新記録を打ち立てた稀代の打者の対戦は、1球ごとに息をのむ見応えのある勝負だった。2ボール1ストライクからの4球目、村上が初めてスイングをかけたが、155キロにバットは空を切る。だが渾身の157キロが2球続けて低めに外れ、四球となった。
シリーズ開幕前、「村上選手と対戦できたら三振を取りたい」と話していた宇田川は、試合後、心底悔しそうだった。
「村上選手と対戦するのを本当に楽しみにしていたので、ちょっと力が入っちゃって、フォアボールを出してしまった。行けるかなと思ったんですけど……自分の負けっすね。あそこでいい球を投げきれなかった」
「頑張れー」“切り替えスイッチ”は宗の言葉
その後、5番・オスナをセカンドゴロに打ち取るが、6番・青木宣親にも四球を与え、1死一、三塁のピンチを招く。
さすがの強心臓も「あそこは結構テンパってました」。
ここで三塁手の宗佑磨がマウンドに歩み寄った。宗は、宇田川の切り替えスイッチを持っている。以前からピンチになるとマウンドに駆け寄って言葉をかけており、CS第2戦で無死一、二塁のピンチを乗り切った際にも、宇田川はこう語っていた。
「宗さんには、『同点になってもいいから、自分の投球をしろ』と言われて。僕は、どんな場面でも自分のピッチングをするというのが目標なので、その初心を思い出して、変な力みがなくなり、楽になりました」
だから日本シリーズ第4戦のピンチでも、「『あ、来てくれた』って、それだけで嬉しくて」。期待して耳を傾けた。だがーー。
「宗さんはいつもすごくいいこと言ってくれるんですけど、今日は『頑張れー』って、それだけ言って帰っていった(笑)。でも期待されてるというか、信頼してくれてるのかなと思って、逆によかったですね」
7番・サンタナ、8番・中村悠平を連続で空振り三振に取り、無失点で切り抜けた。
レギュラーシーズンでも19試合に登板しわずか2失点。走者を背負っても失点しないのは、こうした素直さと切り替えのうまさのおかげかもしれない。
7回からは山崎颯が2イニングを完璧に抑え、9回はジェイコブ・ワゲスパックが締め、完封リレーで1点を死守。オリックスは1勝目を挙げ、宇田川は勝利投手となった。