同校初のプロ野球選手誕生は、19時46分と最も遅い時間に決まった。楽天のドラフト1位は桐光学園・松井裕樹。5球団競合のクジを引き当てて始まったドラフトで、最後に名前を呼ばれたのが今野だった。上岡は「松井で始まって、今野で終わったドラフトでした。背番号も1（松井）と99（今野）。同じ高校生で、足して100。一緒に頑張ればええやないか！　と言って、今野には『順位は関係ない』ときっぱり言いました」。

2013年ドラフト当日の様子。12球団最も遅い時間の指名となった　写真提供=相原正美氏

　「今野指名」に至るまでのストーリーには、上岡の強い確信と情熱があった。高2の秋、部員が5人しかおらず秋季大会にも参加できなかった今野を見つけ出せたのは奇跡に近かった。仙台商・下原俊介監督から「練習試合で面白いピッチャーがいた」という口コミを聞いた。口コミで良いと言われても「プロの目にかなう素材は100人に1人くらいの確率です」と上岡は言う。しかし、その100分の1が今野だった。

「高3になる前の春だったと思います。見た瞬間『見つけてもうた！』と叫んで鳥肌が立ちました。身体の真ん中からロケットが発射するようなボールを投げる。細い身体でコンパクトに腕を振って、垂れないストレートを投げている。威圧感で『ズドーン』という球を投げるピッチャーは大勢いるんですが、そうではなく、大きくない身体で武田一浩さん（元日本ハムなど）みたいなキレのある球を投げるんです。まさか岩出山にこんな選手がいるなんて思ってなかった。いろんな角度から動画を撮って、球団戦略室に報告しました」

　動画を見た星野仙一監督（当時）の言葉は「面白い。ええやないか」。今野龍太の名前は、すぐにリスト入りした。

高3春は部員集めに奔走…いつプロを意識した？

　楽天が今野をドラフト候補リストに加えた時、当の本人は注目されていることを知る由もなかった。とにかく「部員5人」の野球部をなんとかしないと春も試合に出られない。チラシを作って新入生を勧誘しなくては……と別の問題で頭がいっぱいだった。“自分の才能”は二の次だったのだ。

　今野自身、「自分が他と比べて特別に秀でた選手だとは全く思っていなかった」と振り返る。しかしこの「過小評価」が、サクセスストーリーのキーワードになっていく――。

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