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“道しるべ”だった中村俊輔の引退にいま、中村憲剛が思うこと「たまらなく嬉しかったのは…」「俊さんとの対戦は憂鬱、なのに楽しい」
text by
中村憲剛+戸塚啓Kengo Nakamura + Kei Totsuka
photograph byAFLO
posted2022/10/27 11:04
2014年8月23日、J1第21節でマッチアップする中村俊輔と中村憲剛。同試合は横浜F・マリノスが2-0で川崎フロンターレに勝利した
中村憲剛が「俊さんやヤットさんから盗んだ」技術とは
Jリーグでは何度も対戦しました。試合前はホントに憂鬱なんです。俊さん、ヤットさん、イニエスタは、対戦するのがイヤでしたね(苦笑)。
僕もフロンターレも主導権を握りたいわけですが、思うようにやらせてくれないんです。年齢を重ねて経験を積んでも、対戦するのが難しい相手でした。
キツめにマークにいくと、ふらふらと逃げられてしまう。逃げられて、いいボールを通されてしまう。それならと付いていくと、自分が埋めるべきスペースを空けることになってしまう。あるいは、「ここを狙ってくるよな」というコースを締めると、逆を突かれたりする。
少しでもマークをぼかしたら危ない。僕のなかでは警報が鳴りました。色々と想定をしても、想定を超えるプレーをしてくる。
僕自身もそういうプレーをしていくようになるのですが、それはあの人たちから盗んだところがあります。俊さん、ヤットさん、イニエスタにやられてイヤだったことを、僕もやろうと。
試合中はいつも、駆け引きの連続でした。フィジカルで勝負するタイプではないので、見た目の迫力は感じないかもしれませんが、頭のなかでは斬り合っている。フェンシングや剣道みたいに間合いを詰め合って、チェスや将棋のように次の一手を考えている。目に見えない神経戦が、メチャメチャ楽しかったですね。
楽しかったのと同時に、自分のサッカー観を肯定してもらえる感覚でした。この人に勝ちたいと思ったし、研究もしたし、フロンターレを強くしなきゃ、と意欲が沸き上がったものです。僕からすると、あの人たちの高みに自分は登れているのかと、毎回自分の現在地を確かめるような戦いでした。
俊さんがいるチームと対戦して、僕らフロンターレが負けた。そういう試合は、必ずと言っていいほど俊さんの手の上で試合が決まっていたものです。試合前はホントに憂鬱なのに、試合が終わるとものすごく充実感を味わうことができました。