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オリックスの絶対エース山本由伸に何が起こったのか? 日本シリーズ初戦で初体験した”神宮球場の罠”とは「違和感があったりして…」
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNanae Suzuki
posted2022/10/23 12:00
日本シリーズ初戦で先発したオリックスの山本由伸。絶対エースの4失点5回途中降板に何があったのか?
1つはマウンドの硬さだった。
2020年の開幕前に神宮球場のマウンドは、いわゆるメジャー仕様に改造されている。粘土の割合を多くして、それ以前とは見違えるほどに硬く改良された。しかもアマチュア野球と併用という特殊な事情もあり、大学野球をやった後でもマウンドが荒れないように、他球場に比べてもハード仕様になっている。
「神宮のマウンドは硬過ぎる。足元がまったく掘れなくて滑るので投げにくい」
セ・リーグの投手からはこんな声をよく聞く。そればかりかヤクルトの投手でも力投派の左腕・高橋奎二投手らは、本拠地ながらこのマウンドを苦手にしてもいる。
初めて経験する球場の怖さとは
ましてや山本が神宮球場のマウンドに立つのは18年6月8日以来2度目で、そのときもリリーフで1イニングを投げただけだった。
しかもただでさえ神宮球場に慣れない山本にとって、もう1つの難関があった。それはブルペンと実際のマウンドの傾斜が微妙に違うという問題で、これがもう1つの神宮球場の罠なのだ。
この球場は水はけを良くするために外野に向かって、グラウンド全体が微妙なダウンスロープに造られている。そこでマウンドそのものを同じ高さ、傾斜に作っても、ブルペンと実際のグラウンドでは、マウンドの感覚が微妙に違っているのである。そこでいくらブルペンで投げ込んでも、そのわずかなズレが慣れない投手には違和感を与えてしまうという。
その点は阪神時代に神宮球場のブルペンと実際のマウンドの違いを経験しているオリックスの能見篤史投手兼任コーチが、シリーズ開幕直前に指摘していたという報道もあった。
もちろんチームとしても、山本自身もその点は把握していただろう。ただ、そうしたマウンドの微妙な違いは、投手自身が実際にマウンドに立ち、実際に試合で投げてみなければなかなか本当にはつかめない。
そこが神宮球場をほぼ初めて経験する投手の怖さなのである。
「オスナにも本塁打を打たれて、そこでちょっと気づいた部分があって、いい方向に修正できていたんですけど……そこから(左脇腹に)違和感があったりして……」
山本はこの日のピッチングをこう振り返った。感覚をようやくつかみ始め、これからと思った直後に、アクシデントが起こってしまったということだった。
何より心配なのは左脇腹は山本にとっては18年と19年にも痛めている箇所で、いわば“古傷”だということだ。