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<ドラフト5位→阪神のエース>青柳晃洋を大成させた金本監督の“目をつぶる勇気”「コントロールが悪いとか、そういうのは無視していい」
posted2022/10/19 17:00
text by
佐井陽介(日刊スポーツ)Yosuke Sai
photograph by
JIJI PRESS
あそこで続投させてもらえたから、今の青柳がある
さすがに覚悟せざるを得なかった。
まだ肌寒さが残る甲子園。ドラフト5位ルーキーだった青柳晃洋は登板直後の5回表、マウンド上で緊張から顔を引きつらせていた。1球目からボール球が10個続き、球場全体からため息が漏れ続けていた。
「これは代えられちゃうな……」
統括スカウトを任されていた佐野仙好は今も、そう諦めかけた直後の光景を鮮明に記憶している。3者連続四球から2失点した新人に2イニング目が与えられたのだ。
落ち着きを取り戻した変則右腕は3者凡退を奪って、笑顔で降板。試合後に金本知憲監督から「結構、力あるよ。一軍も十二分にあり得る」と褒められたと耳にして、また驚いた。2016年3月5日、ロッテとのオープン戦にまつわる思い出だ。
「もちろん本人が努力してくれたことが一番ですけど、あそこで続投させてもらえたから、今の青柳があるのだと思います」
あれからもう5年が過ぎたというのに、佐野があの時を忘れることはない。それはちょうど、タイガースに新たな息吹が吹き込まれて間もない頃の出来事だった。
2015年、育成路線へと大きく舵を切った
佐野がアマスカウト担当の統括スカウトに昇進したのは2012年1月。当時、阪神といえばFAなどの大型補強で戦力を整える印象がまだ強かった。この年、チームは主力どころの調子が上がらないまま、2年連続Bクラスの5位でシーズンを終えている。
球界史に名を残した金本と城島健司はこの年限りで現役を引退。オフには絶対的守護神の藤川球児が大リーグ移籍を決断した。一気に若返りを進めてもいいタイミングだというのに、二軍の鳴尾浜球場からは勢いのある報告が届かない。球団内で危機感が共有されていくのは自然な流れだった。
「なかなか自前の選手が育たない。そんな中で6年ほど前ですかね。会社、現場、スカウトが一体となって、今まで以上に育成に力を入れていこう、となったのは」
佐野が言う「6年ほど前」とは2015年。球団が不退転の決意を固め、3年前に縦じまを脱いだばかりのビッグネーム、金本の監督招聘に動いた年だ。変革へ。虎はこの年、ついに育成路線へと大きく舵を切った。
当時、佐野ら古参スカウトの脳裏にはまだ苦い記憶がこびりついていた。2人の大卒即戦力投手がシーズン開幕を待たずに負傷離脱した2010年春の後悔だ。