実はこの時の田畑。当初は開幕一軍ではなく、ファームの開幕投手が決まっていたという。ところが、野球の神様は田畑がお好きらしい。開幕直前に平和台で練習していた田畑の頭に打球が直撃すると、首脳陣は大事を取って開幕投手を回避。代わりに開幕一軍に選ばれていた宮田正直（上宮高校／90年のドラフト外入団）が急遽ファームの開幕投手となるため二軍落ち。入れ替わりになる形で田畑は初の開幕一軍ベンチ入りを果たした。

　ちなみに宮田正直はその後一軍の公式戦に一度も出場のないまま95年に現役を引退。あの時、田畑に打球が当たっていなかったら、田畑と宮田の運命も大きく変わっていたのかもしれない。

ダイエー時代の田畑　©︎Sankei Shimbun

「上からすればどっちでもよかったんだと思いますけど、僕にとっては本当に幸運でしたね。ただ必死に投げてきて、一軍に上がれた。初登板、初先発、初勝利という結果も出た。前年まで二軍で7イニングしか投げさせて貰えなかったところから、一気に飛躍することができたんですけど、それである程度満足してしまったような気もするんです。結局、入団した時の「ドラフト最下位」、92番目から見える景色、立てられる目標からすると、「一軍半の選手」でも十分な目標達成じゃないですか。一生懸命にやるんですけど、さらなる上が目指せないというか……環境的にも僕らドラフト下位組には球団もお金を掛けないから、ウィンターリーグとかにも連れて行かれないし、『このままでもいいや』と、なってしまう。たぶん、あのトレードがなければ、僕はすぐに終わっていたでしょうね」

「野村再生工場」の最高傑作

　95年11月22日。ヤクルト柳田聖人・河野亮とダイエー田畑一也・佐藤真一の2対2のトレードが発表された。

　4年間で2勝2敗。万年Bクラスのダイエーで防御率4点台前半の中継ぎ。そんな一軍半の状態でくすぶる田畑を「再生の余地あり」とヤクルトへと引っ張ったのが名将の誉れ高き野村克也。戦力外や一軍半の選手を覚醒させる「野村再生工場」の工場長は、その後の田畑のプロ野球人生に絶大な影響を与えた師でもあった。

野村克也　©︎Koji Asakura

「ダイエーの最後の年ですね。黒潮リーグで『俺は中継ぎじゃなく、先発がやりたい。やらしてください！』と調子こいて直訴していたら、その翌日にトレードされたんです（笑）。

　野村さんは、佐藤真一さんが欲しかったらしく僕はオマケですよ。でもね、そんなことより、ウィンターリーグにも連れて行ってもらえないこんな選手でも、一生懸命にやっていれば、見ている人は、ちゃんと見ているんだ。そう思えたことが、すごく嬉しかったんですよ。しかもヤクルトは前年の日本一ですからね。ファームの人数合わせ要員かもしれないけど、その時のダイエーと比べたら天と地の差。気持ちの面もまるで変わりましたね」

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