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坂口智隆38歳引退「近鉄戦士」がNPBでゼロに… 独立L兼任コーチ近藤一樹39歳らと「球界再編」を乗り越えた苦労人に拍手を 

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広尾晃

広尾晃Kou Hiroo

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posted2022/10/05 06:22

坂口智隆38歳引退「近鉄戦士」がNPBでゼロに… 独立L兼任コーチ近藤一樹39歳らと「球界再編」を乗り越えた苦労人に拍手を<Number Web> photograph by JIJI PRESS

引退試合で胴上げされる坂口智隆

 坂口は16年目のこの年まで、外野以外は1試合も守ったことがない。ゴールデングラブを4回も取った名外野手が、34歳シーズンにしてグラブをミットに持ち替えるとは。果たして大丈夫なのだろうか?

 心配は杞憂に終わった。坂口は一塁手として98試合に出場するとともに、キャリア2番目の打率.317(9位)を記録。オールスターにも選ばれたのだ。

近鉄勢は他人の苦しみが分かる「苦労人」が多いのでは

 坂口は2020年にも規定打席に到達した。しかし2021年以降は出場試合数が減っていた。

 無理もない。ヤクルトには村上宗隆という傑出したスラッガーが登場したからだ。リードオフマンの塩見泰隆、山崎晃大朗など元気のよい選手も次々と現れた。38歳の坂口は後顧の憂いなく20年のキャリアに終止符を打とうとしている。

 キャリアの最初の頃に「球界再編」という大きな波に翻弄された経験を持つ坂口は、少々のことでは動じない強いメンタルと柔らかい対応力を持つに至った。逆境にも強い「苦労人」の野球人生だった。

 筆者は近鉄選手として未曽有の「球界再編」を経験した選手たちは、坂口だけでなく、他人の苦しみがわかる「苦労人」が多いのではないかと思っている。

 前出の大西宏明は近鉄、オリックスから横浜、ソフトバンクとキャリアを重ねた。最後のソフトバンクでは育成選手の甲斐拓也が一流選手に成長するのを見て「入団当初は何もできなかったけど、ああいう素直な子が伸びるのやなと思いました」と語った。

 2018年には独立リーグ、堺シュライクスの監督に就任したが、トライアウトの後で選手たちを前に、

「この中には、このトライアウトを最後に野球をあきらめようと思っている人もいるかもしれない、野球をするのは今日が最後と思っている人には、ここで僕たちと堺シュライクスのテストを受けたことを、良い思い出にして頑張ってほしい」

 と、ぐっとくるような話をした。

もう1人の「近鉄最後の戦士」近藤は今、四国で

 NPBでは坂口智隆が「最後の近鉄戦士」だが――実は独立リーグまで範囲を拡げれば、もうひとり、現役選手がいる。昨年このコラムで紹介し、引退試合で坂口に花束を贈呈した近藤一樹(39)だ。

 彼は昨年、ヤクルトから投手兼任コーチとして香川オリーブガイナーズに入団したが、今年も引き続き同じ役割を帯びてチームを指導していた。

 今年8月のナイター、ブルペンにいた近藤兼任コーチは、最終回、クローザーをマウンドに送った。しかしその投手の調子が今一つだとみると、近藤自身がブルペンで急いで肩を作り始めた。実にあわただしい状況だ。結局、クローザーが立ち直って事なきを得たが、近藤はこの鉄火場のようなひりひりした緊迫感を楽しんでいるのかもしれない。

 チームには「近藤コーチの指導でピッチングがわかるようになりました」と言う投手が何人もいる。様々なドラマを経験してきた「近鉄戦士」ならではと言えよう。

 坂口の引退で「近鉄のユニフォームを着たことがある選手」は、NPBからは消える。しかし彼らが打ち、投げ、走り回った記憶は、我々野球ファンの記憶にずっと刻まれることになるだろう。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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