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「全部追いかけてしまうからね」ヤクルト・坂口智隆はなぜ積み上げた“知識”を捨てる気なのか?
posted2021/02/25 11:02
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph by
Haruka Sato
プロ19年目を迎える春季キャンプでも、この男が纏うハングリーな空気感は変わらない。
ヤクルト・坂口智隆外野手は、沖縄の日差しに目を細めながらこう口にした。
「ヤバイね、試合に出られるかな」
言葉とは裏腹に、その表情はちょっぴり楽しそうだ。
「危機感? 常にあるよ。危機感がなくなったらやめる時だから」とニヤリ、笑った。
「知識が入りすぎていることが危険だな、と感じる」
昨季は主に燕打線の1番打者として114試合に出場。10月にはプロ通算1500安打に到達した節目の年になった。しかし、今季は一塁に2度の首位打者を誇る前ソフトバンクの内川聖一が移籍。外野にはメジャー通算77本塁打のドミンゴ・サンタナ(前インディアンス)が加わり、再び熾烈なレギュラー争いの渦中に放り込まれた。
浦添キャンプでは、一塁と外野の守備を掛け持ちし、特守に汗を流す。打撃練習では、1球1球反芻するように、丁寧に取り組む姿が目立った。実は、坂口は打撃面で新境地に立っているのだという。
「自分の中で、知識が入りすぎていることが危険だな、と感じるんです。余計なものを省いていきたいんですよね」
いわく、思考回路の“断捨離”だ。
「打席に入ると瞬時に、この球が来たら、このコースなら、と想像できてしまう自分がいる。いろいろな球に対応できそうになってしまうのは、今の僕にとっては怖いかなと思うんです。もちろん状況判断や自己犠牲という意味では知識は大切。でも、明確に一番やってはいけないこと以外は、あくまで1人のピッチャーと勝負するんだというところに立ち戻りたい。打てると思ったら打つ、打てないと思ったら見逃す。そのくらいシンプルな思考にしたいんです」