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「魁皇さんは、僕の涙腺を2回も崩壊させた男です」元大関・千代大海46歳がいま明かす友情秘話と、親方としての哲学「弟子に学ぶことのほうが…」
text by
飯塚さきSaki Iizuka
photograph byIchisei Hiramatsu
posted2022/09/10 11:02
元大関・千代大海の九重親方のロングインタビュー。後編では、ともに名大関として君臨した魁皇との友情秘話や、親方としての心構えを語ってもらった
毎日限界を超えるのは難しいんだけど、やろうと思えばできる。それを、いまの時代に合うように噛み砕きながら教えています。先代からもらった“魔法の言葉”を、本人のやる気をかき立てるようにアレンジして伝えていく。毎日が勉強です。追い込みすぎると響かなくて、すぐに「じゃあ辞めます」となってしまう。それで一生「九重から逃げた」ってレッテルを貼られるなんてかわいそうじゃないですか。弟子たちの将来をしっかり支えていってあげたいって、いまはそれしか考えていません。
弟子が27人いれば、27通りの考え方があります。能力も考え方も個人差はありますが、みんなに可能性があるし、みんなにできると信じさせてやりたい。いまは、根性とか精神論だけじゃ強くなりません。僕らの昔話は、武勇伝にしか聞こえないんです。弟子の育て方については、これからもまだまだ学んでいかないといけませんね。
――師匠となって丸6年。九重部屋から多くの関取を生み出していますが、謙虚な学びの姿勢を貫いているのはなぜでしょうか。
自分自身、「俺らの時代は~」っていう先輩親方の話を聞くのがすごく嫌いだったんですよ(笑)。それに、実際いまの子たちには教えられること、気づかされることのほうが多いですよ。
特に16~20歳くらいの子たちは、感情があまり表に出ないので、何を考えているのかわかりにくい。でも内に秘めたものは必ずあるはずなので、たとえば食事に連れ出したりして、「何が好きなの?」「どんな映画を見るの?」なんて話を聞きながら懐に入っていく。コロナ禍で難しくなった部分もありますが、一人ひとりと向き合ってコミュニケーションを取ることはやはり大切だな、と感じます。
加えて、いまも昔も変わらない大事なことは、夢を持つことでしょうね。強くなりたい、お金を稼いで家を建てたい、女の子にモテたい……。なんでもいいから目標を目の前にぶら下げてあげないと、若い子たちの気持ちを奮い立たせることは難しいのかな、と。