――とんでもなくカッコいいですね……。

　しかも、魁皇さんは大記録を打ち立てたので、当然NHKさんの勝利者インタビューに呼ばれたんですが、断ったらしいんですよ。普通は拒否なんてできないのに、「俺と千代大海の関係を知ってるだろう。今日で引退するかもしれないのに、勝利者インタビューなんて行けるわけないじゃないか」って……。魁皇さんがそう言ったと聞いて、僕は風呂場で泣きました。だから、魁皇さんのことが大好きなんです。あの男は本当にカッコいいよね。

　取組後、待っていてくれた師匠とおかみさんのところへあいさつに行きました。潮時と感じてくれていたんでしょう。「お疲れさんでした」「悔いはないよな」って言われたけど、いざ辞めてみたら、やっぱり悔いはあるんですよ。現役って華なんです。辞めてケガが治ると、また土俵に戻りたくなる。戻れたらいいよねって、魁皇さんとも話したことがあります。

――すみません、涙が出てきました。

　あ、もうひとつ魁皇さんのカッコいい話をしていいですか（笑）。大関在位65場所って、僕とタイ記録でしょう。でも魁皇さんは、最後カド番の場所を使ったら66場所になったのに、「大海と同じ数にする」って言って、カド番を使わなかったんですよ。もうね、「魁皇やばくない？」と言いたい（笑）。本人は「ケガがすごく深刻で」と言っていたけど、初日だけ土俵に上がって、1場所多くやろうと思ったら絶対にできたはずです。でも、66場所目のカド番をやらなかった。魁皇さんは、僕の涙腺を2回も崩壊させた男です。なんだか、やたらと魁皇さんを持ち上げる記事になりますね（笑）。

2010年10月の断髪式では、盟友・魁皇に鋏を入れられ思わず涙ぐむ場面も　©JIJI PRESS

「限界を超えろ」先代の教えをいかに噛み砕くか

――平成22年（2010年）初場所の引退後は、年寄佐ノ山を襲名し、師匠が亡くなる平成28年（2016年）まで、部屋付き親方として後進の育成にあたりました。先代の師匠が亡くなる前に学んだことや、いまの指導に生きているのはどんなことですか。

　現役の頃に師匠から教わったことは、隅々まで染みついていました。とにかく基本は「限界を超えろ！」ということ。足を止めたら成長しない。腕立て伏せを500回、1000回やりましたと言っても「それはお前の限界なのか」「どんなやり方でやったのか」と、妥協を一切許さない人でした。実際僕らは、手が痙攣して茶碗が持てないくらいやっていましたから。

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