大相撲PRESSBACK NUMBER
「引導を渡された親父の敵討ちだ」千代の富士が愛弟子・千代大海の初金星に泣いた夜…“ツッパリ大関”が成し遂げた「ふたつの親孝行」
posted2022/09/10 11:01
text by
飯塚さきSaki Iizuka
photograph by
BUNGEISHUNJU
◆◆◆
入門初日に「なんて楽しい世界だ!」
――入門後、直面した壁はありましたか。
まず、相撲界のことをまったく知らなかった。最初からカラフルな色の締め込みを締めて相撲を取れると思っていたし、序ノ口から横綱まで番付があるってことも知りませんでした。でも、そういった仕組みを1日で覚えたら、「なんて楽しい世界だ、北から南まで強い奴らがここに集まっている!」って身震いがして、その日は興奮で寝つけなかったです(笑)。俺が求めていた場所はここだ、と思いましたね。
その後について、壁は特に感じませんでした。もちろん「強いな」と思った人はいますけど、せいぜい一場所くれたら勝てるなって。いままでやってきた空手・柔道・ケンカの感覚で相撲を取っていたので、土俵での力の出し方さえ覚えれば、みんなすぐやっつけられるという手応えがありました。まさに、不良時代に他県へ“遠征”に行っていたときの感覚です。恐怖心はなく、やればやるほど母も喜ぶし、この力で成り上がっていこうと心に誓いました。隅田川を眺めながらね。
――親方は、まわしをほとんど取らないスタイルで番付を駆け上がりました。突き押し相撲に開眼したのはいつ頃からですか。
入門直後からですね。同期生で相撲を取ったときに、僕は空手をやっていたから突っ張ったんです。すると師匠が「お前はそれでいきなさい」と言って、ものの30秒くらいで型が決まりました。師匠は、まず個々に生まれ持ったものを見て、そこを伸ばす指導法。僕は突き押しで、組んだら左四つだった。どの力士にも、そういう天性のものがあるんです。そこから突き押しを磨くことになりました。