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「魁皇さんは、僕の涙腺を2回も崩壊させた男です」元大関・千代大海46歳がいま明かす友情秘話と、親方としての哲学「弟子に学ぶことのほうが…」
posted2022/09/10 11:02
text by
飯塚さきSaki Iizuka
photograph by
Ichisei Hiramatsu
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魁皇との固い友情「お互い、引き際をなくしたな」
――親方は、大関在位65場所という記録を打ち立てた一方で、晩年はケガに苦しみました。引退に際しての思いを振り返っていただければ。
ケガがあって手術もしましたし、現役晩年はストレスでインスリンが出なくなる病気にもかかって……。カド番も14回あったし、最後は力尽きた感じですね。ただ、カド番での優勝もあったので、「逆境のときこそ人間は本当の力が出るんだな」と学んだ土俵生活でもありました。
――同じ九州出身の先輩である魁皇関と共に大関として奮闘する姿からは、“戦友”のような印象も受けました。
実は魁皇さんに、辞める3年くらい前から「お互い、引き際をなくしたな」と言われていたんです。本当は、8勝、9勝の大関はカッコ悪い。二桁勝利で優勝争いをしていないなら、平幕と一緒だと。だったら辞めなきゃいけないのに、すがっているのも嫌ですね、と。でも、魁皇さんには「最後の相手が俺だったらいいでしょ」なんて話もしていて。そうしたら……こんなことってあるんですね。魁皇さんが、師匠の幕内勝数記録(807勝)と並んだところで、自分と当たるんですよ。僕が勝たなければ親不孝。彼が師匠の記録を塗り替えるんだから。しかも、僕はそのとき関脇に陥落していて、引退する場所でした。
仕切りながら思い返すんです。2人で日向ぼっこしながら話していたことが、今日とうとう起きてしまったんだな、って。結果として、僕が負けて、魁皇さんが千代の富士の記録を抜いた。僕は見事にひっくり返されて、ここが潮時だなと思いました。魁皇さんを見ると、すごく悲しい顔をしていた。相手を投げて勝ったのに悲しい顔するって、ものすごい武士道を感じるでしょう。