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首位ヤクルトとの決戦直前に退任発表、それでも2011年落合中日が逆転優勝できた理由とは? 井端の笑顔、吉見の雄叫び、そして落合の目には… 

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鈴木忠平

鈴木忠平Tadahira Suzuki

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photograph byHideki Sugiyama

posted2022/09/22 06:03

首位ヤクルトとの決戦直前に退任発表、それでも2011年落合中日が逆転優勝できた理由とは? 井端の笑顔、吉見の雄叫び、そして落合の目には…<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

首位ヤクルトと8月に最大ゲーム差をつけられながら、逆転優勝を果たした中日。落合博満の監督最終年となった終盤に何が起きていたのか…

 激情の波は落合にも押し寄せていた。

 そこで谷繁は初めてひとつの実感を得たのだ。あの日、言葉にするのをためらったもの。誰かに何かを与えることができたのかもしれないという実感だった。

笑わない男たちが笑い、泣かない男たちが泣いていた

 10月18日。秋の深まった横浜スタジアムで中日はリーグ連覇を決めた。10ゲーム差をひっくり返しての優勝が成った瞬間、谷繁は真っ先にマウンドまで走って、拳を突き上げた。そして次の瞬間にはもう脱力してしまっていた。すべてを出し尽くして何も残っていない。そんな感覚だった。

 不思議なシーズンだった。プロ野球選手としての無力を痛感したあの日から、目の前の小さな一歩だけを見つめてきた。そうすることしかできなかったからだ。

 ただ、その一歩に没頭しているうちに絶望と言えるような状況が変わっていた。笑わない男たちが笑い、泣かない男たちが泣いていた。自分のまわりでいつもなら起こりえないようなことが起こっていた。

 大切な日常を奪われた人たちがそんな自分の姿を見てくれただろうか。

 何かを感じてくれたのだろうか。

 谷繁は知らない。あのときも今も知らなくていいと思っている。

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「ヤクルトはすでに目一杯、落ちてくる可能性は…ある」10ゲーム差から逆転V、2011年落合ドラゴンズ“扇の要”谷繁元信40歳が狙いを定めた「4連戦」

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