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マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
「山田陽翔(近江)や浅野翔吾(高松商)だけじゃない」現地記者が明かす、甲子園“誰も書かなかった”隠れた逸材3人《投手・捕手編》
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKYODO
posted2022/08/31 06:01
甲子園・隠れた逸材【2】海星高・向井恵理登投手(むかい えりと・3年・180cm69kg・右投右打)
いちばんいいのは、軸足(右足)の使い方。右の足首が柔らかい。腕を振り下ろす直前、右足首がグニャッと伸び、足の甲(内側)のほうが地面にベターッと着き、ボールを放す瞬間、存分にプレートを蹴れる。足の内側が地面に着いている間、ボールは指先を離れず、これが球持ちの良さになって、リリースの一瞬で指がかかりやすい。
生盛投手の145キロ前後が低めで伸びて、ゾーンいっぱいに決まるのも、この球持ちと指先感覚があればこそ。この低めの快速球という「才能」を伸ばしていけばよい。
7回、やはりバックのエラーがらみの2死三塁も、右打者の外角低めに145キロ前後の速球をビタビタきめて、逆境に動じない。カットボールの小さくも鋭い変化に、速球と約30キロ差のカーブとの緩急も一級品。
試合終盤、へばりが来て連打されたが、これは昨秋以来の腰痛で、実戦での「投げる体力作り」が不十分だったため。プロの食事とトレーニングで1年鍛えれば、「150キロ」など軽くクリアできる。それほどの潜在能力の塊だ。
【2】海星高・向井恵理登投手「明大・森下暢仁を思い出す」
実をいうと、今年の「九州」はノーマークに近かった。
注目の存在も、福岡と大分に数人。そのほかは正直、あまり期待していなかったところに、まず興南高・生盛投手が登場し、もう1人「これは……」と思わず前のめりになった快腕が現れたから驚いた。
長崎代表の海星高・向井恵理登投手(むかい えりと・3年・180cm69kg・右投右打)。試合開始の1球目から、その投球フォームと、速球の猛烈なバックスピンに目を奪われた。
エース・宮原明弥が日本文理高を完封して勝ち進んだ海星高。この2戦目・天理戦の先発は、がっしりどっしりタイプのエースとは対照的に、スリムなシルエットの背番号11・向井。
長崎県予選は、エース宮原とほぼ同じイニング投げているから、決して「控え」じゃない。
両肩の内側でテークバックから腕が振り下ろされる投球フォームは直す所なしの、体にやさしい合理的な連動。ゆっくり左足を上げて、膝が胸の高さになっても姿勢にゆらぎがなく、軸足にタメを作ってから体重移動につなげられるメカニズムも理想的。
「数字」は135キロ前後でも、スイングを跳ね返して前に飛ばせないホームベース上でのボールの強さ。
110キロのカーブでも、捕手の捕球音がはっきり聞こえるのは、衝撃が強いから……つまり、落下速度が速いから。空振りのとれるカーブだ。
カットボールにフォークでもストライクがとれて、いくらなんでも細い体を、ここから5、6キロ増量できた時のピッチングを想像すると、ゾクゾクしてくるじゃないか。「大分商・森下暢仁(現・広島)」が「明治大学・森下暢仁」に変化した時のような高ぶりを感じる。