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澤穂希が明かす、なでしこジャパン世界一の舞台裏。世界へ挑むサクラフィフティーンを鼓舞する夏。澤穂希×長田いろは[スペシャル対談]

posted2025/07/24 11:30

 
澤穂希が明かす、なでしこジャパン世界一の舞台裏。世界へ挑むサクラフィフティーンを鼓舞する夏。澤穂希×長田いろは[スペシャル対談]<Number Web> photograph by Shiro Miyake

左から長田いろは(ラグビー15人制女子日本代表)、澤穂希(JFA Magical Fieldキャプテン)

text by

二宮寿朗

二宮寿朗Toshio Ninomiya

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photograph by

Shiro Miyake

この夏、イングランドの地で世界の強豪へ立ち向かうサクラフィフティーン。世界で戦うこと、勝ち抜くことについてサッカー界のレジェンド澤穂希さんと長田いろはキャプテンが語り合った。

――サクラフィフティーンは4月にランキング上位のアメリカ代表にアウェイで勝利するなど勢いをつけて、8月に開幕するイングランドでの大舞台に向かおうとしています。

長田 前回大会からの3年間で積み上げてきたことが今ようやく結果につながってきているなと感じます。昨秋南アフリカ代表、スコットランド代表、ウェールズ代表と戦って、いいところまではいっても結局は勝ち切れなかった。でも今年に入ってから(強い相手にも)準備したものをしっかり出せるようになってきています。

 なでしこジャパンが2011年に世界一になったとき、私たちも一歩ずついろんなものを積み上げてきていたのね。誰も予想していなかったけど、急に勝てたわけじゃなくて段々と力をつけていたから。

長田 テレビで応援していました。私がまだ中学生のころ、女子の団体競技がここまで行けるんだって希望を持ちました。

 ありがとう(笑)。決勝で戦ったアメリカ代表には過去24回戦って一度も勝てていなかったんだよね。追いついてPK戦で勝って、何よりアメリカを破っての優勝だったから喜びが倍増でした。世界に挑むサクラフィフティーンはどのような目標を?

長田 私たちはまだ決勝トーナメントに進んだことがないので、プール戦を勝ち上がってベスト8以上を目標に置いています。

 優勝って言ったほうがいいかも。

長田 えっ、優勝ですか。

 (世界一の)3年前に北京でメダルが獲れなくて、当時の佐々木(則夫)監督が『目標をベスト4って言ったから、そうなっちゃったな』と。だから目標を優勝に切り替えたら、本当にそうなったの。言霊ではないけど、目標をより高く置いたほうがいいなっていうのは私自身、経験して思ったこと。

長田 格上の相手に対しても“勝てなくはない”という手応えが強くなってきているので凄く参考になります。今回(プール戦では)大会2連覇中のニュージーランド代表とも対戦します。

 私たちがアメリカとやったときもそうだけど、勝負は蓋を開けてみないと分からないから。シンプルに最後まで諦めないことが大切になるし、メンタルに拠るところが大きいんじゃないかな。そういう相手にこそ絶対に負けたくないという気持ちを前面に押し出してほしい。

――そして2人には「代表キャプテン」という共通項があります。

長田 実際に先輩たちのキャプテン像を見てきて、自分はそのキャラクターじゃないと思っていました。でも誰かになろうとするんじゃなく、自分らしくと思うようになってからは気持ちが随分と軽くなったような気がしています。

 私も同じ。適任の人ってほかにいたと思う。でも任せてもらった以上は、自分のキャプテンシー、キャプテンカラーを見つけながらやっていけばいいかなって。言葉で伝えていくより実際の行動で見せていくしかないなって思ったんだよね。

長田 それはプレーで引っ張っていくということでしょうか?

 点を入れなきゃいけない状況ではそうしてきたつもりだし、守備も危ない場面でどれだけ体を張れるか。後々、後輩たちが『澤さんがあれだけやっているのだから、やらないわけにはいかない』と言ってくれたことはうれしかった。伝えたかったことがしっかり伝わっていると思えたから。

長田 私は正直、言葉がうまくないタイプ。澤さんと共通していてプレーやスキルの部分において、まず自分が体現するということを意識しています。

 キャプテンとして何か心掛けていることがあるとしたら?

長田 チームメイトにはいつでもオープンに話してもらえるように、とは思っています。ミーティングごとにいろんなところに座って、隣に座る選手と意見交換するように。以前は伝えたいことを伝えるにしても、今言っちゃってもダメかなとかいろいろ考えてしまっていましたけど、思ったらすぐ自分の言葉で伝えるようになりました。

 コミュニケーションのことで言うと、ピッチを離れたらサッカーの話はあまりしなかったな。どうでもいい話ばかり(笑)。でも普段話をしているから、その選手のコンディションも大体分かる。伝え方にしても選手のコンディションやタイミングを頭に入れながら、この選手に対してはこういうふうに声掛けしたほうがいいとか自分なりに考えて。ただ、チームの戦術的な修正とか課題というのは、すぐ直さなきゃいけないからその場で言うようにしていた。

長田 ありがたいのは先輩たちも選手たちに声を掛けてくれたり、チームの雰囲気について逆に相談してくれたりして、周りに凄く助けられています。

 そうそう、キャプテンだからって全部背負うことってない。何か問題が出てきたら宮間(あや)なんて“穂希ちゃん、ちょっと待ってて。私がまず動くから”と言ってくれたりしてワンクッション置けたことも大きかったね。重いリュックを、みんなで背負っていけばいい。長田さんとこうやって話をしても、まず自分でやらなきゃって責任感の強いタイプだなって感じる。だからこそ人に任せるところはもっと任せていいんじゃないかな。

――世界一になったなでしこジャパンの経験が、サクラフィフティーンにも活きるところがあるのかもしれません。

 あのときのチームは雰囲気が凄く良くて、みんないつも笑顔で。私は負ける気がしなかった。一人でも違う方向を見ていたら、誰か一人でも欠けていたら優勝はなかったと思う。チームコンセプトの統一を図りつつも、各選手の個性を思い切り出していけるようにと心掛けていた。長田さんには大きな舞台をぜひ楽しんでほしいし、やり切ってほしい。自分が率先して楽しんだら、結局みんなも楽しんでプレーできると思うから。

長田 澤さんの言葉、心にいっぱい刺さりました(笑)。自分が楽しむとともに、精いっぱいやり切りたいと思います!

長田 いろはIroha Nagata / ラグビー15人制女子日本代表

1998年12月21日生、福岡県出身。'16年に代表デビュー。'17年から2大会連続W杯出場。代表キャップ38。168cm。

 

澤 穂希Homare Sawa / JFA Magical Field キャプテン

1978年9月6日生、東京都出身。'11年W杯では得点王とMVPとなり、'11年のバロンドールに輝いた。165cm。

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