「ちょっと生意気」だった松井が涙を見せた

　夏の大会直前には甲子園での打撃練習が行われ、松井は5打数1安打。期待されたサク越えはなかった。それでも初めて足を踏み入れた球場の感想を聞かれると、ニキビがいっぱいの16歳は「思ったより広くないですね」とぶっきらぼうに話した。

「ちょっと生意気」。入社3年目で高校野球担当1年目の筆者の目にはそう映った。ただ松井の名誉のために付け加えると、高校生には高校生なりの、10代には10代なりの“生意気さ”があって許されるべきだし、むしろ当然だと思う。

　だからこそ、初戦の西東京代表・日大鶴ケ丘に対し、3打数無安打で終わり、3対7で敗北した後、冒頭の通り涙を見せたのは少し意外だった。

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「来年こそは先輩たちの分まで頑張って優勝したい」

　そう口にしながら松井が人目もはばからず泣いたことを話すと、松井の両親は驚いていた。とりわけ父親の昌雄さんは「泣いたんですか。私でも見たことないのに。それは見たかったですな」と、目を輝かせたのが印象的だった。

2年のアメリカ遠征、1年前とは別人に

　2年になり、松井は高校日本代表（18人）に招集された。夏の甲子園では15打数4安打1本塁打2打点。数字としては物足りないが、右中間スタンド深くへ運んだ特大アーチを評価されて代表に選出された。2年生はほかに帝京の三澤興一だけだった。

三澤はのちに巨人入りし、松井とチームメイトに　©Hideki Sugiyama

　この日本代表のアメリカ遠征に同行することになり、1年時の日大鶴ケ丘戦で取材して以来約1年ぶりに松井と相対した。その姿に目を見開いた。オーラが1年の時とは違う。大柄でニキビの目立つ風貌は変わっていないが、常に穏やかな笑みをたたえた表情、すべてを包み込んでしまいそうな優しいまなざし。1年前とは別人だった。インタビューすると、松井は多くの場面で「どうせなら目標は大きく」という枕詞を付けるようになっていた。好感度が高く、前向きで意欲に満ち溢れた立ち居振る舞いをするようになっていた。1年前、「甲子園って思ったより広くない」と、好戦的ともとれる発言をしていたのがウソのようだ。

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