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「なぜ近江のエース・山田陽翔は完投にこだわらない?」「なぜ最強スラッガー・浅野翔吾は4番ではない?」夏の甲子園、4つの“新常識”
posted2022/08/18 11:03
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph by
Nanae Suzuki
指揮官のコメントが変わった。
球児の意識に変化の兆しが見える。
このほどベスト8が出揃った第104回全国高校野球選手権でのことだ。
夏の甲子園で、初めて2勝を挙げた二松学舎大付の指揮官・市原勝人監督はいう。
「エースの辻(大雅)は2回戦から中1日となりますから、(3回戦は)登板はさせませんでした。疲労骨折の手術からそんなに時間が経っていませんので無理はさせず、大矢(青葉)-布施(東海)の継投でいこうと決めていました。2人は踏ん張ってくれたと思います」
二松学舎大付は結果的に0-4で敗れたが、大阪桐蔭との大一番でエースの登板回避を選択したのだ。
【1】「エース≠完投」3試合連続完投はゼロ
勝つためだけでなく大事なことがある。
これは2020年に導入された球数制限(甲子園中止で運用は2021年から)ルールの影響もあるが、指導者の中に生まれている変化といっていい。
事実、今大会ベスト8に進出したチームで、かつて常識だった「エース=完投するもの」を貫き、3試合連続完投したチームは一つもないのだ。2018年は下関国際や金足農業、済美などが「エース依存」をしていただけに、この動きは見逃せない。
当然、投手を故障から守る観点もあるが、エースの疲労を極力軽減して、大事な試合で高いパフォーマンスを発揮してもらいたいという意図もある。
近江のエース・山田陽翔は今春のセンバツ決勝戦で3回途中降板。コンディション不良だったが、そこまで4試合を1人で投げ切っている。しかし今大会は3試合に先発して、完投は1。点差が開くと控え投手にマウンドを譲っている。
「監督から降板を提案された時、自分に行きたい気持ちもありましたが、(控え投手の)星野(世那)に経験させた方がいいと思って同意しました」
【2】「チーム主砲≠4番バッター」
そして、打順の組み方でも新しい発想を持つ指揮官が現れた。
ベスト8に進出した高松商は、プロ注目のスラッガー・浅野翔吾を擁するが、チームの中心選手が務めることが多い3番、4番ではなく、1番を担っている。その理由を長尾健司監督はこう語る。