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「なぜ近江のエース・山田陽翔は完投にこだわらない?」「なぜ最強スラッガー・浅野翔吾は4番ではない?」夏の甲子園、4つの“新常識”
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNanae Suzuki
posted2022/08/18 11:03
近江のエース・山田陽翔。ベスト8進出まで、3試合に先発して完投は1。今春のセンバツでは4試合連続で完投したが、何が変わったのか?
2011年夏の2回戦、帝京―八幡商業。帝京が3点リードの9回、一死満塁の場面で前進守備を敷いた。アドバンテージを利用しない守り方で、この後、守備のエラーと逆転満塁本塁打を浴び、前進守備が裏目に出た。
さらに、2010年夏の中京大中京―早実では、守る中京大中京が三塁に走者が進むたびに前進守備を敷き、その度に守備網を引き裂く適時打を打たれ、大量失点するということがあった。結果的に6−21で中京大中京は敗れている。
三塁に走者を背負うと自動的に1点を守らないといけない意識が先行して、点差を考えないシフトを敷く。高校野球の指導者には、目先の1点に固執してしまう考え方があり、勝利至上主義の温床ともいえた。
しかし、今大会は各チームが点差やイニングを意識したポジションを敷いているのだ。ポジショニングをうまく活用し、優勝候補を破ったケースもある。国学院栃木―智弁和歌山の試合である。
国学院栃木は試合開始から極端な守備陣形をとり、智弁和歌山対策に奔走した。外野は長打を警戒して深く守り、左打者の時は、大きく右側にシフト。遊撃手も芝生の切れ目くらいを守り、中堅手の前めのポジションまでケアする。
2−2の同点の6回表には一死二、三塁のピンチを招いたが、ここで前進守備の陣形は取らず、長打を警戒するポジションを敷いた。セカンドゴロの間に1点を失ったが、それをよしとしたのだ。直後の6回裏に逆転し、8回に追加点を挙げた国学院栃木はそのまま、昨夏の覇者を下す大勝利をあげた。
国学院栃木の柄目直人監督はこう語っている。
「データでポジショニングを決めています。素晴らしいバッターというのはヒットゾーンに打つのがうまいので、ヒットゾーンで守っていればいいんじゃない?というような感覚でそのようなポジションを敷いています。データはうちのチームにとって肝です。6回表のあの場面では強打でロングヒットを打たれた方が絶対嫌なので、後ろに下がっていれば1点で済むかなと。攻めた結果、いい形になりました」
【4】「データ班」が増えている
このように、データを駆使するチームが増えているのも今大会の特徴だ。
チームにデータ班をおき、戦い方を研究する。
愛工大名電は、チームでラプソードを導入している。ラプソードとはボールの弾道を測定する機械で、投手のスピードやボールの回転数、変化量を測定。打者であればスイングスピードやスイングの角度までを割り出す。これまではアバウトな技術指導が多かったが、データ化することによって、再現性を生み出し、プレーの精度を高めることに一役買っている。
同高の倉野光生監督は3回戦で完投したエースの有馬伽久の活躍に役立ったとその効果を語る。