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「遅いですよね」36歳の苦労人・ロッテ荻野貴司がプロ13年目で到達した“1000本”の重み《あの最強助っ人を抜く新記録》 

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千葉ロッテマリーンズ取材班

千葉ロッテマリーンズ取材班Chiba Lotte Marines

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posted2022/08/15 11:02

「遅いですよね」36歳の苦労人・ロッテ荻野貴司がプロ13年目で到達した“1000本”の重み《あの最強助っ人を抜く新記録》<Number Web> photograph by KYODO

8月10日のソフトバンク戦で1000本安打を達成したロッテ荻野貴司(36歳)

 不運な怪我に見舞われてきた荻野だが、悔しさの募る心のには、もう一つ大切にしてきた言葉がある。

「知人から教えてもらった『人間万事塞翁が馬』という言葉です。プロ野球はどうしても成績で一喜一憂したり、ケガをして落ち込んだりするけど、でも長い目で見ることも大事だと考えるようになりました。不幸と思ったことが実は幸せにつながっていたりする。不幸をただ単に嘆いて終わらせるのではなく、そこから這い上がることで成長できることもあるはずだと考えるようになりました」

 なぜ自分だけがこんなに怪我に見舞われるのかと悩んでいたとき、先輩選手を通じて知り合ったビジネスマンから聞いた言葉がスッと入ってきた。

「不幸な出来事が起きても、実はそれは人生においてなにかいい事へと繋がるのかもしれない。だから試練が立ちふさがっている時はそれを乗り越えることで人として成長するチャンスが待っているかもしれないと思う事だよ」

 そこから予期せぬ出来事も前向きに捉えられるようになった。

「もちろん怪我をしないに越したことはないと思います。でも怪我をしたからプレーが出来る幸せを誰よりも自分は知っているし、野球選手である一瞬をしっかりと噛みしめながら生活できるようになった。怪我をしたから出会えた人もたくさんいた。身体のことなど分かった事もたくさんある。今の自分があるのはたくさんの挫折のおかげだと思っています」

 ある時、その格言を教えてくれた知人から連絡がきた。「荻野くんの活躍が励みになっている」と言ってくれた。その知人は営んでいた仕事を辞め、新しい事業に取り組み始めたときだったという。プロ10年目にして初めて規定打席に到達し、グラウンドを所狭しと躍動する背番号「0」の姿をテレビで目にして勇気が湧いたと連絡があったのだ。

「あのとき、『人間万事塞翁が馬』という言葉を教えてもらって、本当にありがたかった。その言葉が支えになった。今度は自分がプレーで恩返しをする番だと思いました」

「いや、もう抜かれないかな」

 10月に37歳となる今シーズンも、マリーンズの切り込み隊長としてチームを引っ張り、勝利へと導いている。味わった挫折の日々がエネルギーとなり困難を乗り越えてきた男だからこそ伝えられるメッセージがある。

「遅いですよね。この記録は当分、塗り替えられないですよね。いや、もう抜かれないかな」

 荻野の1000安打達成は確かに遅かったかもしれない。しかし、そこには“荻野貴司らしい”他の選手にはない重みと深みがある。

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