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金足農ナインの表情が…近江の監督&選手が感じた“不気味さ”「現代野球で考えられます?」「なんでそんなに余裕なんかなって」 

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中村計

中村計Kei Nakamura

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photograph byBUNGEISHUNJU

posted2022/08/18 17:01

金足農ナインの表情が…近江の監督&選手が感じた“不気味さ”「現代野球で考えられます?」「なんでそんなに余裕なんかなって」<Number Web> photograph by BUNGEISHUNJU

2018年夏の甲子園で準優勝。“カナノウ旋風”を巻き起こした金足農ナイン

負けているのに…“楽しそう”だった金足農

「応援がすご過ぎて。うわ、すげぇ~って」

 繰り返しになるが、このとき、金足農業は1-2で負けていた。一塁を守っていた北村も驚きを隠さない。

「えっ、まだ負けてるんやで、と。なんでそんなに余裕なんかな、って」

 ベンチの中の吉田は、応援歌を口ずさみつつ、両隣の選手と肩を組み、戦況を見守っていた。多賀はその光景を、試合後、写真で見たそうだ。

「吉田君がベンチから身を乗り出して、ええ顔して、肩を組んでる写真があったでしょ。あんな試合で、あんな顔できるって、すごいですよね。見たことない光景ですよ」

 まったく同感だった。高校野球だけでなく、多くのスポーツシーンを通じても、ビッグゲームの、もっとも大事な場面で、ベンチで選手たちが肩を組み、あんなに楽しそうな表情をしている光景を私も見たことがなかった。

 金足農業は決勝の大阪桐蔭戦の最終回、2-13と、絶望的なリードを奪われている中でも、やはり同じように互いに肩を組み、勝負の世界にいる人間とは思えない柔らかな表情を浮かべていたものだ。

あの「サヨナラ2ランスクイズ」の舞台裏

「応援がすご過ぎて」笑っちゃった斎藤は、0アウト満塁の場面で、三塁側に冷静にスクイズバントを決めた。三塁走者が生還し、まずは同点。すると、続いて二塁走者までもが一気にホームを陥れ、金足農業は近江に3-2でサヨナラ勝ちを収める。

 サヨナラ2ランスクイズ。前日の逆転3ランに勝るとも劣らない劇的なフィナーレだった。

【次ページ】 吉田輝星は二度と現れない――

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