“大谷のライバル”だった男の現在とは？

　大谷は高校3年の春、センバツに出場して甲子園でホームランを放ち、夏の岩手大会ではピッチャーとして160kmを叩き出した。一方の大坂の青森山田は3年間、北條史也、田村龍弘を擁した光星学院に一度も勝つことができず、甲子園に出場することはできなかった。しかも中学時代、軟式のボールを投げて狂った感覚を高校で取り戻すことができないまま、大坂は高校3年の春、ピッチャー失格の烙印を押されてしまう。

　高校でも身長は伸びず、174cmという上背も彼とプロとの距離を遠ざけた。同じ東北の大谷、北條、田村らが高校からプロ野球の世界へ進む中、大坂は仙台大学へ進学。現在は鷺宮製作所で、広角に強い打球を打てる力強いバッティングを武器に、プロの舞台に立つことを目指している。

「高校のときの甲子園出場も無理だなって感じはなかったし、プロも、一緒にやってた人が行ってるので、あのレベルでできるようになれば行けるのかなという気持ちはあります。今は急がず、休まず、一歩ずつ……この言葉が今の自分に響くのは、やっぱり中学のとき、もうちょっとちゃんと練習しておけばよかったという気持ちがあるからなのかもしれません。正直、あのまま硬式でピッチャーを続けていたら、また違う野球人生だったのかなとは感じてます」

大谷が明かしたこと「そこに大坂君がいたから」

　今から10年前、東北のリトルリーグに並び立っていた両雄には、残酷な差がついた。それはなぜだったのか――大谷の発したこんな言葉に、その理由が垣間見える。

「僕は狭い範囲で野球やってました。どれだけ大谷、大谷と言われても、それは岩手という小さい枠組みの中の話だろうと思ってました。僕がそう思えたのは、上の大会に出ることができて、そこに大坂君がいたからだったし、全国大会で戦ったいい選手をいっぱい見たからだと思います。僕はいつも、全国にはもっともっと上がいるんだろうと思って野球をやっていました」

　大坂は大谷のこの言葉に、こう呟いた。

「そんなふうに思ってくれていたなんて、全然、知りませんでした。でも自分にとっての大谷君は、もうとっくに遠い存在になってます。目の前でスライダーが消えちゃった、あのときからですね」