Sports Graphic Number MoreBACK NUMBER
早実・斎藤佑樹に「勝てるかもしれない」2006年夏・西東京2回戦で起きた都立高校の“番狂わせ”未遂「斎藤ひとりに負けたような気がします」
text by
日比野恭三Kyozo Hibino
photograph byNaoya Sanuki
posted2022/07/21 06:00
2006年夏の甲子園を制した早実・斎藤佑樹。その伝説が始まる前、西東京大会2回戦で都立高校を相手に苦戦を強いられていた
奇跡を願った最後の代打攻勢が不発に終わり、グラウンドに別れを告げると、涙と謝罪の言葉をこぼし続けた。
「圧倒的な負け方なら、そこまで泣かなかったと思います。勝てる試合を落とした。それがよけいに悔しかった。終わってみれば、斎藤ひとりに負けたような気がします」
古嶋も泣き、そして謝った。この試合、斎藤は15奪三振をマーク。古嶋を含め、3年生のクリーンアップは沈黙させられた。
「今でも、あの試合、あの瞬間は勝てるチャンスがあったと思っています。でも、村木も2番手のピッチャーもヒジが壊れていた。次の試合で勝つことは難しかったかもしれない。だから、あそこで早実が勝ってよかったって、そんな思いもあるんです」
16年春、早実に「10年越しのリベンジ」
その後、両校が夏に対戦したのは2011年の一度きりだ。2-1で早実に軍配が上がり、早実は決勝で日大三に惜敗した。
「三高は甲子園で優勝しましたから、うちは全国3位ということになりますかね」
そう笑うのは08年から昭和の指揮を執る森勇二だ。10年には東西の区別がない秋季都大会でベスト4入り。虎視眈々とジャイアントキリングを狙ってきた。
今年の春季大会では、2回戦で清宮幸太郎を擁する早実と対戦し、6-2と快勝。
「10年越しのリベンジ」と大きく報じられた。森はうれしそうに言う。
「春の抽選会に行ったキャプテンから電話がかかってきたんですよ。『監督、聞きたいですか?』って。いいから、どこだって聞くと、『清宮です、清宮です!』。早実の名前より先に清宮くんなんですね」
マネージャーに部員のLINEを見せてもらうと、「勝ったらすごくねえか」「いいクジ引いた!」そんな言葉が並んでいた。
斎藤佑樹、そして清宮幸太郎。早実に再び現れたスターは、昭和の、都立の反骨心を焚きつけている。10年前の夏の借りは、まだ返していない。
《Sports Graphic Number905号(2016年6月30日発売)『斎藤佑樹を追い詰めた都立の意地 2006年西東京2回戦・早稲田実業vs都立昭和』より》
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。