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セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
「中田英寿らとローマで優勝→無所属新人で市長当選」 インタビューしてたら“子育てトーク”…トンマージ48歳が選挙に勝てたワケ
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byShinichiro Kaneko/AFLO
posted2022/07/09 17:01
パルマ時代の中田英寿とデュエルするトンマージ。政治家転身した今の姿は?
14年から16年にかけてイタリア共和国首相を務めた左派の大物マッテオ・レンツィ(47歳)は、生粋の政治屋だろう。
フィレンツェの地方代議士の家に生まれ、高校生の時分から政治活動を始めた彼は、大学生活と並行しながら政党で働きそのままプロ政治家になった。政治弁論には長けるが市井で働いた経験がなく、庶民からは「世間の実情を何も知らない、口先だけのお坊ちゃん首相」と後ろ指を指され、政権を投げ出すとそれ見たことかと揶揄された。
新ベローナ市長に当選したトンマージを待ち受けるのも茨の道かもしれない。政治家経験ゼロからの挑戦だ。市議会で保守勢力との衝突は避けられないだろう。
トンマージにインタビューしていたはずが子育て話に
8年ほど前、選手協会会長当時のトンマージにインタビューしたときのことを思い出す。
取材時の慣例として敬称で語りかけたところ、彼は「ファーストネームで呼んでくれ」と譲らなかった。気さくな彼の気遣いのおかげで、インタビューはとてもスムーズにいった。
当時は、アマチームで余暇にプレーするだけだったトンマージが、UEFAヨーロッパリーグの予備予選を戦うサンマリノ共和国の小さなクラブに移籍したニュースが話題になっていた頃だ。理由を尋ねたら「3歳の次男が『パパが本気でプレーするところを見たい』っていうもんだから」と朗らかに笑った。
まるで気さくな教会の神父のように、聞き役になるのが滅法うまいトンマージはいつの間にか僕の話を聞き出して、気がついたら2人で子育てトークをしていた。
まず他人の話を聞かないイタリア人たちに囲まれていると、トンマージのような人物は稀有だ。自己主張の激しいサッカー界ならなおのこと、なるほどこれなら誰もが信頼を寄せるはずだ、と納得したのを覚えている。
トンマージは“偉大なつなぎ役”だった。
スクデットを獲ったローマには、前線に王子トッティやFWバティストゥータ、後方にはDFカフーやDFサムエル、サブとして中田英寿やモンテッラらが控える豪華メンバーで、誰にも皆個性と華があった。ただし、中盤で彼らをつないでいたのは愛他主義者トンマージで、鉄面皮の指揮官ファビオ・カペッロが「トンマージなしで優勝はなかった」と評価したほどだった。
カペッロの送った祝辞は傑作だった
可愛い教え子がベローナ新市長に当選した夜、恩師カペッロの送った祝辞は傑作だった。
「市長職をうまくやって、次は国会だぞ」
気の早すぎるエールだが、名将はそれだけ愛弟子の人柄と手腕を見込んでいるのだろう。“市長選の勝利は、スクデットに匹敵しますか?”こう地元紙記者から尋ねられたトンマージはこう応えている。
「当選もスクデットも、チームワークがあったからこそだよ」
第2回では、かつてピッチで輝いたサッカー選手たちの、政治家転身の悲喜こもごもを記す。
<#2につづく>
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