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JリーグPRESSBACK NUMBER
今も消えない“フェイクな印象” 我那覇和樹を襲った「ニンニク注射」報道とドーピング冤罪事件を絶対に忘れてはいけない理由
text by
木村元彦Yukihiko Kimura
photograph byTamon Matsuzono
posted2022/07/16 17:01
オシムジャパンに選ばれていた当時の我那覇和樹
自らの人望が移籍先を自然と手繰り寄せたことが我那覇らしいとも言えるが、当然ながらプレー面でも我那覇より5歳年下の永芳卓磨監督は大きな期待を寄せている。
「うちは前線のポストプレーや起点になる動きを課題として取り組んでいて、そこで一番力を発揮してくれる選手だと思います。何より点が取れるというガナさんの能力を僕自身も楽しみにしています」
宮地は10代を過ごした大分の地で、尊敬する先輩と再び同じユニフォームを着ることになった。しかし、最近悔しい出来事に遭遇する。
「大分でも『我那覇さんて、あのニンニク注射を打った人?』って言った人がいたんです。悪気はなくて言っているんでしょうし、僕はその度に『それは違います』と伝えているんですが、まだそんなことが……」
冤罪事件に巻き込まれたのは、2007年のこと
宮地の話を聞きながら、私もまた暗澹たる気持ちになった。
我那覇がドーピングの冤罪事件に巻き込まれたのは、川崎フロンターレ(以下、川崎F)時代の2007年のこと。それから15年が経過しても“フェイク”が今もなお流通している。デマや誤報を飛ばすのは、一瞬で出来る。しかし、一度拡散されたものを打ち消す時間と労力は膨大にかかる。だからこそ今一度、真実を記しておく。
ことの発端は、感冒によって脱水症状を起こした我那覇がチームドクターの手によって点滴注入の治療を受けたことをスポーツ紙記者が直接取材せず、「我那覇に秘密兵器 にんにく注射でパワー全開」との見出しをつけて発信したことにある。
正当な医療行為である点滴と疲労回復のために健康体に打つにんにく注射は明らかに異なる。この件は本来、Jリーグが事実関係を調査して誤報を流した記者を呼び出し、叱責して終わらせるべきものだった。ところが、Jリーグ側はこの報道を鵜呑みにして、当事者に確認する前に、マスコミに向けてドーピングだと発信し始めた。
メディアスクラムが我那覇を襲った
我那覇自身は事情聴取で「報道されたことは事実ではなく、自分が受けたのは点滴治療でした」と言明すれば、ドーピングではないことが、明るみになると信じていた。ところが、聴取においてはほとんど反論の機会が与えられず、青木治人(当時Jリーグドーピングコントロール委員会委員長=以下DC委員長)が処罰ありきの前提でドーピングと宣告してしまう。
さらに処分を決めるアンチ・ドーピング特別委員会が開かれる前に川淵三郎日本サッカー協会会長(当時)は「我那覇の件は軽いけん責処分ではなく、6試合以下の出場停止処分か、それより重い資格停止(12カ月以下)、その程度が常識的なところだろう」とスポーツ紙などに語っている。つまり、メディアスクラムが我那覇を襲ったのだ。