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JリーグPRESSBACK NUMBER
今も消えない“フェイクな印象” 我那覇和樹を襲った「ニンニク注射」報道とドーピング冤罪事件を絶対に忘れてはいけない理由
text by
木村元彦Yukihiko Kimura
photograph byTamon Matsuzono
posted2022/07/16 17:01
オシムジャパンに選ばれていた当時の我那覇和樹
結果、Jリーグ臨時理事会では、我那覇に6試合の公式試合の出場停止処分と川崎フロンターレに1000万円の制裁金を科した。
この裁定にJリーグの全クラブのチームドクターたち31人が立ち上がった。無実の我那覇に不名誉極まりない罪を負わせてはいけない——と処分の撤回を求めたのである。これが看過されれば、選手は正当な医療行為を受けられなくなる。事態を重く見たJADA(日本アンチドーピング機構)も「我那覇はドーピングではない」と異例の声明を出した。しかし、一度下した裁定を青木DC委員長は覆そうとしなかった。
間違った前例が残ると、今後の全てのスポーツ選手が
そんな中で我那覇は浦和レッズの仁賀定雄チームドクターから「この間違った前例が残ると、今後の全てのスポーツ選手が適切な点滴医療を受ける際に、常にドーピング違反に後で問われるかもしれないという恐怖にさらされます」という手紙を受け取った。そして我那覇は「これ以降、こんな思いを自分以外の選手にさせたくはない」と真実に迫ることを決意。最終的には3000万円を超える私財を投じてスイスにあるCAS(スポーツ仲裁裁判所)での裁定を望んだ。
ひとりの選手がJリーグを相手に裁判を起こすというつらさや恐れは想像するに難くないが、それでも我那覇は立ち上がった。
詳細は拙著『争うは本意ならねど』を読んで頂きたいが、CASのジャッジは我那覇側の全面勝訴に終わった。すでにWADA(世界アンチドーピング機構)もJADAもその規約を読めば明白にその潔白は証明された。しかし、CASの結審がなされた後もJリーグ側と鬼武健二チェアマン(当時)は、川崎Fへ課した制裁金1000万円を返還しないと会見で発表した。
Jリーグ参与であった三ツ谷洋子は当時、出席したJリーグ理事会での議題が「川崎Fへ『制裁金を返還しない』と解釈されないように、いかに上手く説明するか」という点に終始したとブログで批判している。一方でJリーグは1000万円を「ドーピングの啓蒙活動に使う」という目的で返還をしないと発表した。この言い方は我那覇がグレーであったかのように感じさせるものだった。
彼はJリーグと闘ったのではなく、Jリーグを守った
何の過ちも犯していない選手を審査の前からドーピング扱いし、CASの裁定が出た後も非を認めないどころか、あいまいな発信で責任を取らなかった。その対応が、15年を経過しても未だに我那覇が「ニンニク注射」「ドーピング」というワードに紐づけされるという事態に陥らせたのである。
いく度も書いて来たが、我那覇はにんにく注射など打っていない。ましてやドーピング違反などしていない。そして我那覇が立ち上がったのは、自分の名誉のためだけではなく、すべてのアスリートの身体と人権を守るためだった。彼はJリーグと闘ったのではなく、Jリーグを守ったのである。
そんな我那覇は今、大分の地でどうサッカー人生と向き合っているのか。後編では本人に41歳での現役生活、故郷・沖縄、恩師のイビツァ・オシムへの思いなどの話を聞いた。
<#2に続く>
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。